#ソフトウェアエンジニアがHondaに転職して感じたこと4選を読み解く!ソフトウェアエンジニアがHondaで見た未来:自動車業界のデジタル革命とその挑戦💥🚗💨 #五21
ソフトウェアエンジニアがHondaで見た未来:自動車業界のデジタル革命とその挑戦💥🚗💨
異業種転職で気づいた、クルマとソフトウェアのリアルな距離感
https://megalodon.jp/2025-0520-0852-35/https://honda-techblog.hatenablog.com:443/entry/2025/05/19/152406目次
- 第1章 はじめに
- 1.1 著者の背景と目的
- 1.1.1 ソフトウェアエンジニアとしての10年のキャリア
- 1.1.1.1 セキュリティ対策ソフトウェアの経験
- 1.1.1.2 上流から下流までの開発経験
- 1.1.2 Hondaデジタルプラットフォーム開発部への転職
- 1.1.2.1 転職の動機と背景
- 1.1.2.2 デジタルプラットフォーム開発部の役割とミッション
- 1.1.2.2.1 AWSを活用したWebサービス開発
- 1.1.2.2.2 カーナビやクラウドプラットフォームの開発
- 1.1.1 ソフトウェアエンジニアとしての10年のキャリア
- 1.2 本書の目的と構成
- 1.2.1 自動車業界におけるソフトウェア開発の課題の提示
- 1.2.1.1 ソフトウェアと自動車の融合の現状
- 1.2.1.2 現場視点からの課題提起
- 1.2.2 読者へのメッセージ
- 1.2.2.1 ソフトウェアエンジニア向けの視点
- 1.2.2.2 自動車業界関係者への提言
- 1.2.2.2.1 デジタルトランスフォーメーション(DX)の必要性
- 1.2.2.2.2 透明性と情報発信の重要性
- 1.2.1 自動車業界におけるソフトウェア開発の課題の提示
- 1.1 著者の背景と目的
- 第2章 自動車業界のソフトウェア開発の課題
- 2.1 ソフトウェア経験者の不足
- 2.1.1 自動車業界とソフトウェア業界の組織文化の違い
- 2.1.1.1 自動車中心の業務プロセスの影響
- 2.1.1.2 ソフトウェア開発の専門性の欠如
- 2.1.1.2.1 マーケティングの課題:アプリエンゲージメントの未経験
- 2.1.1.2.2 グローバル開発での輸出プロセスの障壁
- 2.1.2 社内政治とソフトウェア理解の不足
- 2.1.2.1 他部署の承認プロセスの複雑さ
- 2.1.2.2 機械屋の政治力の影響
- 2.1.2.2.1 機械系エンジニアの支配的地位
- 2.1.2.2.2 ソフトウェア部門の予算獲得の難しさ
- 2.1.1 自動車業界とソフトウェア業界の組織文化の違い
- 2.2 ソフトウェア開発インフラの未整備
- 2.2.1 ハードウェアとクラウド環境の不足
- 2.2.1.1 ノートパソコンでのAndroidビルドの課題
- 2.2.1.2 CAD/CAEシミュレーションとデスクトップPCの必要性
- 2.2.1.2.1 大画面・GPU搭載PCの不足
- 2.2.1.2.2 Raspberry Piや試作基盤の調達難
- 2.2.2 ネットワークとプロキシの問題
- 2.2.2.1 AOSP clone時のプロキシ越えの障壁
- 2.2.2.2 通信帯域の圧迫とその影響
- 2.2.3 社内承認プロセスの課題
- 2.2.3.1 ソフトウェア理解の不足による説得の難しさ
- 2.2.3.2 稟議制度とその影響
- 2.2.3.2.1 社内チェックの厳格さと記事削除の背景
- 2.2.3.2.2 社内政治的な意図とその影響
- 2.2.1 ハードウェアとクラウド環境の不足
- 2.3 高い能力を持つ人材の存在
- 2.3.1 主観的評価の背景と限界
- 2.3.1.1 能力評価の基準とその主観性
- 2.3.1.2 ソフトウェアベンダーとの比較
- 2.3.2 自動車業界の人材採用の強み
- 2.3.2.1 新卒・中途採用の競争力
- 2.3.2.2 高い能力がもたらす業務効率化
- 2.3.2.2.1 知識補充後の迅速な適応力
- 2.3.2.2.2 ボトムアップカルチャーの影響
- 2.3.1 主観的評価の背景と限界
- 2.4 労働組合の役割と実態
- 2.4.1 労働組合の活動内容とその影響
- 2.4.1.1 給与・ボーナス交渉のメリット
- 2.4.1.2 組合活動の負担とその影響
- 2.4.1.2.1 選挙応援の要求とその問題点
- 2.4.1.2.2 組合費とメリットのバランス
- 2.4.2 ソフトウェアエンジニアへの具体的な影響
- 2.4.2.1 労働環境改善への貢献
- 2.4.2.2 技術革新への潜在的影響
- 2.4.2.2.1 労働組合の政治的関与の議論
- 2.4.2.2.2 社内での透明性と発信の課題
- 2.4.1 労働組合の活動内容とその影響
- 2.1 ソフトウェア経験者の不足
- 第3章 新たな技術トレンドと自動車業界
- 3.1 Software Defined Vehicle(SDV)の台頭
- 3.1.1 SDVの概念とその重要性
- 3.1.1.1 ソフトウェアによる自動車の再定義
- 3.1.1.2 HondaのSDVへの取り組み
- 3.1.1.2.1 新会社設立とその戦略
- 3.1.1.2.2 自動運転とコネクテッドカーの展望
- 3.1.2 グローバル競争とSDVの影響
- 3.1.2.1 TeslaやBYDとの比較
- 3.1.2.2 日本の自動車メーカーの課題
- 3.1.1 SDVの概念とその重要性
- 3.2 AIとLLMの自動車業界への応用
- 3.2.1 大規模言語モデル(LLM)の可能性
- 3.2.1.1 コード生成とデバッグへの活用
- 3.2.1.2 幻覚問題とその課題
- 3.2.1.2.1 PolarsとPandasでの具体例
- 3.2.1.2.2 LLMのコード品質向上の限界
- 3.2.2 Agent2Agent(A2A)プロトコルの導入
- 3.2.2.1 A2Aの概要と自動車業界への適用可能性
- 3.2.2.2 セキュリティと認証方式
- 3.2.2.2.1 OpenAPI認証スキームとHTTPS/TLS
- 3.2.2.2.2 JSON-RPC 2.0とServer-Sent Events(SSE)
- 3.2.2.3 マルチエージェントシステムの構築
- 3.2.2.3.1 Agent Cardによる能力発見
- 3.2.2.3.2 タスク管理とコラボレーション
- 3.2.1 大規模言語モデル(LLM)の可能性
- 3.3 オープンソースと自動車業界
- 3.3.1 オープンソースソフトウェアの活用
- 3.3.1.1 LibreOfficeやZetaOfficeの可能性
- 3.3.1.2 コスト削減と自由度の向上
- 3.3.1.2.1 オープンソースの導入事例
- 3.3.1.2.2 自動車業界への適用可能性
- 3.3.2 オープンソースコミュニティの動向
- 3.3.2.1 Open Deep Researchプロジェクトの影響
- 3.3.2.2 マルチAIプラットフォームのサポート
- 3.3.1 オープンソースソフトウェアの活用
- 3.1 Software Defined Vehicle(SDV)の台頭
- 第4章 本論文に対する疑問点と多角的視点
- 4.1 論文の主張への疑問
- 4.1.1 データや事例の不足
- 4.1.1.1 具体的なプロジェクト遅延やコストの例
- 4.1.1.2 比較対象のソフトウェア企業の事例
- 4.1.2 主観的評価の限界
- 4.1.2.1 能力評価の定量化の必要性
- 4.1.2.2 客観的指標の導入可能性
- 4.1.3 記事削除の背景とその影響
- 4.1.3.1 社内チェックと透明性の矛盾
- 4.1.3.2 社内政治的意図の可能性
- 4.1.3.2.1 削除によるマーケティングへの悪影響
- 4.1.3.2.2 社風と情報発信の課題
- 4.1.1 データや事例の不足
- 4.2 多角的視点からの問いかけ
- 4.2.1 業界比較と技術スタックの分析
- 4.2.1.1 他の製造業(航空宇宙、電機)との比較
- 4.2.1.2 Hondaの技術スタックの詳細
- 4.2.2 組織文化とグローバル競争力
- 4.2.2.1 日本の自動車業界のDXの現状
- 4.2.2.2 ボトムアップカルチャーとその影響
- 4.2.2.2.1 Hondaの社風とソフトウェア開発
- 4.2.2.2.2 機械系とソフトウェア系の対立
- 4.2.3 A2Aプロトコルの適用可能性
- 4.2.3.1 自動車開発におけるエージェント間連携
- 4.2.3.2 セキュリティとスケーラビリティの課題
- 4.2.4 労働組合の政治的関与の議論
- 4.2.4.1 選挙応援の要求とその影響
- 4.2.4.2 労働組合の透明性とエンジニアの反応
- 4.2.1 業界比較と技術スタックの分析
- 4.1 論文の主張への疑問
- 第5章 歴史的位置づけ
- 5.1 自動車産業のソフトウェア化の過渡期
- 5.1.1 Software Defined Vehicleの歴史的背景
- 5.1.1.1 ハードウェア中心からソフトウェア中心へ
- 5.1.1.2 グローバルな技術競争の文脈
- 5.1.2 Hondaの取り組みの位置づけ
- 5.1.2.1 新会社設立とソフトウェア強化
- 5.1.2.2 日本の自動車産業全体との比較
- 5.1.2.2.1 サプライヤー依存の歴史的背景
- 5.1.2.2.2 技術開発の丸投げ問題
- 5.1.1 Software Defined Vehicleの歴史的背景
- 5.2 日本のソフトウェア産業の課題
- 5.2.1 歴史的・文化的要因
- 5.2.1.1 ティム・ロメロの分析に基づく考察
- 5.2.1.2 ソフトウェアの質と競争力の低下
- 5.2.1.2.1 MISRAなど古いルールの影響
- 5.2.1.2.2 日本のソフトウェア産業の停滞
- 5.2.2 労働組合の歴史的役割
- 5.2.2.1 戦後から現代までの変遷
- 5.2.2.2 デジタル時代における再評価
- 5.2.2.2.1 政治的関与の歴史的背景
- 5.2.2.2.2 組合と技術革新の関係
- 5.2.1 歴史的・文化的要因
- 5.1 自動車産業のソフトウェア化の過渡期
- 第6章 日本への影響
- 6.1 自動車産業の競争力への影響
- 6.1.1 グローバル競争とソフトウェア開発
- 6.1.1.1 SDV時代における日本の立ち位置
- 6.1.1.2 コスト増大と消費者への影響
- 6.1.1.2.1 開発コストの消費者価格への転嫁
- 6.1.1.2.2 国際競争力の低下リスク
- 6.1.2 A2Aプロトコルの導入効果
- 6.1.2.1 エージェント間連携による効率化
- 6.1.2.2 日本のDX遅れへの対応策
- 6.1.1 グローバル競争とソフトウェア開発
- 6.2 人材育成と雇用の課題
- 6.2.1 ソフトウェア教育の必要性
- 6.2.1.1 大学・企業での教育プログラムの不足
- 6.2.1.2 LLMを活用した教育の可能性
- 6.2.1.2.1 コード生成支援ツールの教育利用
- 6.2.1.2.2 社内トレーニングの強化
- 6.2.2 労働組合の影響
- 6.2.2.1 労働条件改善と技術革新のバランス
- 6.2.2.2 組合活動の新たな役割
- 6.2.2.2.1 選挙応援の議論とその影響
- 6.2.2.2.2 エンジニアのキャリア形成への影響
- 6.2.1 ソフトウェア教育の必要性
- 6.3 企業イメージと採用への影響
- 6.3.1 記事削除によるマーケティングの失敗
- 6.3.1.1 エンジニア採用へのマイナス効果
- 6.3.1.2 顧客と投資家への印象の悪化
- 6.3.2 透明性と情報発信の課題
- 6.3.2.1 社内チェックとSNS反応のギャップ
- 6.3.2.2 ポジティブな情報発信の必要性
- 6.3.1 記事削除によるマーケティングの失敗
- 6.1 自動車産業の競争力への影響
- 第7章 今後の研究課題
- 7.1 人材育成モデルの構築
- 7.1.1 自動車業界向けの教育プログラム
- 7.1.1.1 ソフトウェアスキルセットの標準化
- 7.1.1.2 社内トレーニングの強化
- 7.1.1.2.1 実践的な開発環境の提供
- 7.1.1.2.2 外部専門家との連携
- 7.1.2 LLMとA2Aの教育への応用
- 7.1.2.1 コード生成支援ツールの活用
- 7.1.2.2 エージェント間連携のトレーニングシナリオ
- 7.1.1 自動車業界向けの教育プログラム
- 7.2 インフラと組織文化の最適化
- 7.2.1 クラウド活用の標準化
- 7.2.1.1 AWSやAzureの導入拡大
- 7.2.1.2 オープンソースツールの活用
- 7.2.1.2.1 LibreOfficeやZetaOfficeの導入
- 7.2.1.2.2 Open Deep Researchの活用
- 7.2.2 アジャイル開発と組織文化の融合
- 7.2.2.1 トップダウン構造の改革
- 7.2.2.2 A2Aを活用したアジャイルプロセス
- 7.2.2.2.1 ボトムアップカルチャーの強化
- 7.2.2.2.2 機械系とソフトウェア系の協業
- 7.2.1 クラウド活用の標準化
- 7.3 セキュリティとスケーラビリティの強化
- 7.3.1 A2Aプロトコルのセキュリティ課題
- 7.3.1.1 認証・認可方式の標準化
- 7.3.1.2 企業向けセキュリティ対策の強化
- 7.3.2 スケーラブルなエージェントシステム
- 7.3.2.1 マルチエージェント環境のスケーラビリティ
- 7.3.2.2 LongPollingとWebSocketsの比較
- 7.3.2.2.1 自動車開発での通信方式の最適化
- 7.3.2.2.2 リアルタイム処理の課題
- 7.3.1 A2Aプロトコルのセキュリティ課題
- 7.4 社内政治と情報発信の改善
- 7.4.1 社内稟議プロセスの改革
- 7.4.1.1 ソフトウェア開発の予算確保の簡素化
- 7.4.1.2 透明性の高い情報発信の確立
- 7.4.2 機械系とソフトウェア系の協業モデル
- 7.4.2.1 部門間対立の解消策
- 7.4.2.2 横串を刺すプラットフォームの構築
- 7.4.1 社内稟議プロセスの改革
- 7.1 人材育成モデルの構築
- 第8章 結論
- 8.1 自動車業界のソフトウェア化の未来
- 8.1.1 Hondaの挑戦と可能性
- 8.1.1.1 ソフトウェア開発力の強化策
- 8.1.1.2 A2Aプロトコルの導入による変革
- 8.1.1.2.1 エージェント間連携の未来
- 8.1.1.2.2 SDVの加速
- 8.1.2 ソフトウェアエンジニアの役割
- 8.1.2.1 自動車業界での新たなキャリアパス
- 8.1.2.2 技術革新の推進者としての使命
- 8.1.1 Hondaの挑戦と可能性
- 8.2 日本のDXの展望
- 8.2.1 自動車産業のグローバル競争力
- 8.2.1.1 SDVとA2Aのシナジー
- 8.2.1.2 日本企業の変革の必要性
- 8.2.2 オープンソースとAIの活用
- 8.2.2.1 オープンソースコミュニティの役割
- 8.2.2.2 LLMとA2Aの未来
- 8.2.2.2.1 オープンソースによるコスト削減
- 8.2.2.2.2 技術革新の加速
- 8.2.1 自動車産業のグローバル競争力
- 8.3 透明性と企業イメージの再構築
- 8.3.1 記事削除の教訓
- 8.3.1.1 情報発信の重要性
- 8.3.1.2 エンジニア採用への影響
- 8.3.2 ポジティブな情報発信の戦略
- 8.3.2.1 社内文化の透明性向上
- 8.3.2.2 外部との協業と発信
- 8.3.1 記事削除の教訓
- 8.1 自動車業界のソフトウェア化の未来
- 付録
- 付録A 参考文献
- A.1 図書
- A.2 政府資料
- A.3 報道記事
- A.4 学術論文
- A.5 ウェブ資料
- A.6 X投稿
- 付録B 用語索引
- 付録C 用語解説
- 付録D 想定問答
- 付録E 潜在的読者のために
- 付録F 今後の研究課題
- 付録A 参考文献
第1章 はじめに
1.1 著者の背景と目的
みなさん、初めまして。本田技研工業 デジタルプラットフォーム開発部のTera-Cと申します。
彼は、ソフトウェアエンジニアとして約10年間、様々な現場で経験を積んできました。そして今、自動車業界、特にHondaという世界的な企業の一員として、ソフトウェア開発の最前線に立っています。この本は、そんな彼が異業種に飛び込んで感じたリアルな体験や気づきを、皆さんにお伝えするために書きました。
1.1.1 ソフトウェアエンジニアとしての10年のキャリア
彼のエンジニアとしての道のりは、多岐にわたります。特に印象深いのは、セキュリティ対策ソフトウェアのパッケージベンダーで働いていた経験です。
1.1.1.1 セキュリティ対策ソフトウェアの経験
セキュリティ対策ソフトウェアは、高度な技術力と常に変化する脅威への対応力が求められる分野です。ここでは、単にコードを書くだけでなく、システムの設計思想からテスト、運用、顧客サポートまで、ソフトウェア開発のあらゆる側面に関わる機会がありました。
1.1.1.2 上流から下流までの開発経験
比較的小規模ながらも、製品全体の開発サイクルを経験できたことは、彼のエンジニアとしての基盤を築きました。要件定義から設計、実装、テスト、デプロイ、そして保守・運用まで、文字通り「上流から下流まで」一貫して携わることができたのです。これにより、ソフトウェア開発全体を見通す視野が養われたと感じています。
1.1.2 Hondaデジタルプラットフォーム開発部への転職
ソフトウェアの世界にどっぷり浸かっていた彼が、なぜ畑違いとも思える自動車業界、そしてHondaに転職を決めたのか。そこにはいくつかの明確な動機と背景がありました。
1.1.2.1 転職の動機と背景
一つは、自動車が急速に「走るコンピューター」へと進化していることへの強い関心です。自動運転やコネクテッドカーといった技術は、まさにソフトウェアが中心となり、人々の生活や社会を大きく変える可能性を秘めています。この変革の波に、エンジニアとして関わりたいという思いが募りました。
もう一つは、Hondaという企業そのものが持つ魅力です。「技術屋集団」としてのイメージ、そしてチャレンジ精神を重んじる社風に惹かれました。異業種から来た自分でも、これまでの経験を活かしつつ、新しい分野で挑戦できるのではないか、そんな期待を抱きました。
1.1.2.2 デジタルプラットフォーム開発部の役割とミッション
彼が所属するデジタルプラットフォーム開発部は、その名の通り、Hondaのデジタル領域を支える基盤を開発しています。そのミッションは、自動車とソフトウェアを融合させ、新たな価値を生み出すことにあります。
1.1.2.2.1 AWSを活用したWebサービス開発
彼たちの部署では、Amazon Web Services(AWS)を積極的に活用し、様々なWebサービスやサーバーを開発しています。これは、自動車本体に組み込まれるソフトウェアだけでなく、車とスマートフォンアプリを連携させたり、車両データを活用したりするためのバックエンドシステムなどを指します。クラウドの力を借りることで、スケーラブルで柔軟な開発を目指しています。
1.1.2.2.2 カーナビやクラウドプラットフォームの開発
具体的には、次世代のカーナビゲーションシステムの内製開発に関わったり、Honda独自のクラウドプラットフォームを構築したりといった業務に携わっています。自動車という物理的な製品と、デジタルなサービスが連携するための「つなぎ目」となる部分を開発している、と言えるでしょうか。
1.2 本書の目的と構成
この本を通じて、彼が最も伝えたいのは、自動車業界、特にHondaという巨大組織の中でソフトウェア開発が現在どのような位置づけにあり、どのような課題に直面しているかという現実です。そして、その上で見えてくる可能性や、今後の展望について皆さんと一緒に考えたいと思っています。
1.2.1 自動車業界におけるソフトウェア開発の課題の提示
自動車はもはや単なる機械の塊ではありません。ソフトウェアの機能が車の魅力や性能を大きく左右する時代です。「Software Defined Vehicle(SDV)」という言葉が一般化していることからも、その重要性が伺えます。
1.2.1.1 ソフトウェアと自動車の融合の現状
しかし、長い歴史を持つ自動車業界が、ソフトウェア開発をコアビジネスとして取り込む過程は、決して平坦ではありません。ハードウェア開発を主軸としてきた組織文化や開発プロセスは、ソフトウェア開発のスピード感やアジャイルな手法とは相性が悪い部分もあります。
1.2.1.2 現場視点からの課題提起
この本では、まさにその「現場」で彼が肌で感じた課題を率直にお伝えします。ソフトウェア経験者の不足、開発インフラの未整備、そして伝統的な組織文化との摩擦など、理想と現実のギャップにフォーカスを当てます。これは、これから自動車業界を目指すソフトウェアエンジニアの方々にとって、貴重な情報となるはずです。
1.2.2 読者へのメッセージ
この本は、主に二つの層の読者を想定して書かれています。
1.2.2.1 ソフトウェアエンジニア向けの視点
一つは、彼と同じようにソフトウェア開発の世界でキャリアを積んでこられた皆さんです。自動車業界への転職を考えている方、あるいは異業種への転職に興味がある方にとって、この本が具体的なイメージを持つための一助となれば嬉しいです。自動車業界でソフトウェアエンジニアとして働くことの魅力や難しさ、そして求められるスキルやマインドセットについて、彼の経験を通じてお伝えします。
1.2.2.2 自動車業界関係者への提言
もう一つは、現在自動車業界にお勤めの皆さんです。特に、ハードウェア開発を中心にキャリアを築いてこられた方々にとって、この本で述べる内容は少し耳の痛い話かもしれません。しかし、SDV時代においては、ソフトウェアへの理解と組織全体の変革が不可欠です。
1.2.2.2.1 デジタルトランスフォーメーション(DX)の必要性
日本の自動車産業がグローバル競争で勝ち抜くためには、待ったなしでデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進する必要があります。これは、単にITツールを導入するだけでなく、組織文化、ビジネスプロセス、そして働く人々の意識そのものを変革することです。彼の現場からの視点が、その変革に向けた議論のきっかけになれば幸いです。
1.2.2.2.2 透明性と情報発信の重要性
そして、最後に強調したいのが、透明性と情報発信の重要性です。特に、ソフトウェアエンジニアの採用競争が激化する中で、企業がどのような課題を抱え、それに対してどう取り組んでいるのかをオープンに発信することは、優秀な人材を惹きつける上で非常に重要です。今回の記事が一時的に削除された経緯なども踏まえ、この点についても考察を深めていきたいと思います。
コラム:異世界転生ならぬ異業種転職?
ソフトウェア業界から自動車業界への転職は、彼にとってまさに異世界に飛び込むような体験でした(笑)。プログラミング言語は共通語ですが、話されるビジネス用語や組織のルールはまるで違うのです。会議で飛び交う略語や専門用語に最初は戸惑い、まるで異世界ファンタジーの冒険者のように、一つずつ言葉の意味を覚え、世界の法則を理解していく日々でした。でも、この「異世界感」こそが、新しい学びや気づきを与えてくれる刺激的な環境なのだと感じています。😊
第2章 自動車業界のソフトウェア開発の課題
この章では、彼がHondaに転職して特に強く感じた、自動車業界におけるソフトウェア開発の課題について、深掘りしてお話しします。これは、単にHondaに限った話ではなく、多くの日本の伝統的な自動車メーカーが共通して抱えている可能性のある構造的な課題だと思います。
2.1 ソフトウェア経験者の不足
まず最初に、そして最も根本的な課題として感じたのが、「ソフトウェアの仕事の経験がある人が圧倒的に少ない」ということです。もちろん、これは自動車会社なので当たり前、という側面はあります。しかし、Software Defined Vehicleが現実となる中で、この状況は大きなボトルネックとなっています。
2.1.1 自動車業界とソフトウェア業界の組織文化の違い
この経験者不足の背景には、自動車業界とソフトウェア業界の根本的な組織文化の違いがあります。
2.1.1.1 自動車中心の業務プロセスの影響
自動車会社は、数百年にわたる自動車製造の歴史の上に成り立っています。組織構造、評価システム、意思決定プロセス、そして日々の業務の進め方、その全てが「自動車を作る」「自動車を売る」という活動を中心に構築されています。人事、総務、経理といった間接部門でさえ、その業務は自動車ビジネスを円滑に進めることに最適化されています。ソフトウェアの会社であれば、これら全ての部署がソフトウェア製品やサービスを理解し、関連する業務を行いますが、自動車会社ではそうではありません。ソフトウェアに関するイレギュラーな手続きや判断が必要になった際、どの部署に相談すれば良いか分からなかったり、適切な担当部署が見つかっても、ゼロから状況を説明し、理解を得るのに膨大な時間と労力がかかったりするのです。
2.1.1.2 ソフトウェア開発の専門性の欠如
結果として、組織全体としてソフトウェア開発に関する深い専門性や経験が不足しています。
2.1.1.2.1 マーケティングの課題:アプリエンゲージメントの未経験
例えば、自動車のマーケティングであれば長年のノウハウが蓄積されています。しかし、車と連携するiPhoneアプリのユーザーエンゲージメント(ユーザーがアプリを使い続け、積極的に関わる度合い)を向上させるためのデジタルマーケティングとなると、経験者がほとんどいない、といった状況に直面します。対象が「自動車」から「ソフトウェアサービス」に変わった途端、これまでの知見が活かせなくなってしまうのです。
2.1.1.2.2 グローバル開発での輸出プロセスの障壁
また、グローバルなソフトウェア開発においても、思いもよらない壁にぶつかります。例えば、インドの開発拠点のエンジニアが、日本の開発拠点に置かれたサーバー(あるいはAWSのオレゴンリージョンなど、物理的な所在地が意識されるクラウド環境)から開発に必要なソフトウェアライブラリやビルドイメージをダウンロードする際に、それが「情報資産の輸出」とみなされ、複雑な輸出管理手続きが必要になる、といったケースです。自動車という物理的な製品の輸出入には慣れていても、デジタルデータの越境に関する法務や手続きに詳しい担当者は限られています。こうした手続き一つ一つが、ソフトウェア開発のスピードを著しく低下させる要因となります。
2.1.2 社内政治とソフトウェア理解の不足
経験者不足は、社内の力学にも影響を与えます。特に伝統的な製造業においては、「機械屋」と呼ばれるハードウェア開発出身のエンジニアが組織内で強い影響力を持つ傾向があります。これは、会社の基盤となる製品が物理的な「モノ」であることから自然発生的に生まれるものです。
2.1.2.1 他部署の承認プロセスの複雑さ
ソフトウェア開発を進める上で、新しいツールやクラウドサービスの導入、開発体制の変更など、様々な点で他部署、特に経理部門や法務部門、あるいはセキュリティ部門といった間接部門からの承認が必要となります。ソフトウェアについて深い理解がないこれらの部署の担当者に、なぜこの投資が必要なのか、なぜこの手法が効率的なのかをゼロから説明し、理解を得るには多大な労力がかかります。彼らにとっては、過去の成功事例や既存のルールに照らし合わせるのが最も安全な判断だからです。結果として、承認プロセスが複雑化し、迅速な意思決定が阻害されてしまいます。
2.1.2.2 機械屋の政治力の影響
さらに、「機械屋」の政治力も無視できません。ソフトウェア開発は目に見えにくく、その価値や投資対効果を説明するのが難しい側面があります。一方、機械設計や生産技術は、具体的な部品や設備として成果が見えやすく、長年の実績に基づいた評価システムが確立されています。このため、ソフトウェア開発部門が予算を獲得したり、新しい取り組みを進めたりする際に、ハードウェア部門と比較して優先順位が低く見られがちになる傾向があります。
2.1.2.2.1 機械系エンジニアの支配的地位
これは特定の誰かが意図的に行っているというよりも、長年の組織構造や評価システムの中で自然に形成されてきた力関係です。機械系エンジニアが組織内で支配的な地位を占めることは、彼らの専門性や経験に敬意を払うべきですが、同時にソフトウェア開発部門の自律性や権限を制限する要因ともなり得ます。
2.1.2.2.2 ソフトウェア部門の予算獲得の難しさ
結果として、ソフトウェア部門が新しい技術やインフラに投資するための予算を獲得するのが難しくなるという課題が生じます。これは、次のセクションで述べるインフラの未整備にも繋がります。
コラム:稟議書という名のラスボス
ソフトウェア企業では、新しいSaaSを導入する!となれば、IT担当者と部署の責任者でサクッと決めて試用を開始、良ければ正式導入、といった流れが一般的でした。しかし、自動車会社に来てからは、全てが「稟議書」という名の書類に集約され、関係各部署のハンコをこれでもかというほど集めるプロセスが必要になります。これがもう、RPGで言うところの「ラスボス」級の難易度で…😵💫 「なぜこのツールが必要なのか?」「既存システムではダメなのか?」「セキュリティリスクは?」「費用対効果は?」といった問いに、ソフトウェアに詳しくない方々にも理解できるように丁寧に説明し、納得してもらう必要があります。説得材料を揃え、何度も説明し、ようやくハンコが揃ったと思ったら、どこかの部署で止まってしまう…なんてこともザラ。技術的な課題をクリアするよりも、稟議を通す方がはるかに大変だと感じることもしばしばです。
2.2 ソフトウェア開発インフラの未整備
ソフトウェア経験者の不足と並んで、彼が自動車会社への転職で最も衝撃を受けたのが、「ソフトウェア開発のインフラが整っていない」という現実でした。これは、自動車会社がこれまでソフトウェア開発を内製化するモチベーションや必要性が低かったことの裏返しとも言えます。
2.2.1 ハードウェアとクラウド環境の不足
彼が以前所属していたソフトウェアベンダーでは、エンジニア一人ひとりに高性能なデスクトップPCが支給され、検証用に潤沢なサーバーリソース(物理サーバー、VMwareのような仮想環境、あるいはAWSやAzureといったクラウド)が用意されているのが当たり前でした。開発、テスト、デプロイといった一連の作業に必要なコンピューターリソースは、必要に応じてすぐに利用できる環境だったのです。
2.2.1.1 ノートパソコンでのAndroidビルドの課題
しかし、自動車業界に転職して最初に与えられたのは、ごく一般的なノートパソコンだけでした。最新のソフトウェア技術に興味があり、プライベートでは色々なツールを試していた彼にとって、これはかなりのカルチャーショックでした。「仕事で使う必要がないなら、いらないでしょ?」という考え方が主流のように感じられました。特に、Androidを使った次世代カーナビを内製開発するミッションに関わった際は、このインフラの課題が深刻化しました。Android Open Source Project(AOSP)のような巨大なコードベースをビルドするには、非常に高い計算能力とメモリ容量が必要です。それを一般的なノートパソコンでやろうとすると、何時間、場合によっては何日もかかり、開発効率が著しく低下します。これは、到底ソフトウェア開発を効率的に進められる環境とは言えませんでした。
2.2.1.2 CAD/CAEシミュレーションとデスクトップPCの必要性
ここで疑問に思う方もいるかもしれません。「自動車メーカーには、CAD/CAEシミュレーションのために高性能なデスクトップPCがたくさんあるのでは?」と(参考:augsUK氏のX投稿)。確かに、自動車の設計や解析を行う部門には、大画面ディスプレイと高性能なGPU(画像処理装置)を搭載したワークステーションクラスのデスクトップPCが多数配備されています。しかし、これらのPCは主に機械設計やシミュレーション用途に特化しており、ソフトウェア開発に必要な環境(開発ツール、OS、ライブラリ、アクセス権限など)が整っているとは限りません。また、部門間の壁もあり、機械系部門のPCをソフトウェア開発部門が自由に使う、ということは簡単ではありませんでした。
2.2.1.2.1 大画面・GPU搭載PCの不足
ソフトウェア開発、特にGUI(グラフィカルユーザーインターフェース)を伴う開発や、AI/機械学習関連の開発では、大画面ディスプレイやGPU搭載PCが非常に有効です。複数のIDE(統合開発環境)やドキュメントを同時に表示したり、計算量の多い処理を高速化したりするためです。しかし、こうしたスペックのPCをソフトウェア開発部門向けに調達すること自体が、前述の稟議制度なども相まって容易ではありませんでした。
2.2.1.2.2 Raspberry Piや試作基盤の調達難
また、自動車関連のソフトウェア開発では、ターゲットとなるハードウェアに近い環境でのテストやデバッグが不可欠です。Raspberry Piのような小型コンピューターや、実際のカーナビやECU(電子制御ユニット)の試作基盤といった物理的なデバイスが必要になります。ソフトウェア企業であれば、評価用のハードウェアを比較的容易に調達できますが、自動車会社ではこうした「開発用」のハードウェア調達にも、部門の壁や調達プロセスの複雑さが伴い、時間がかかることがありました。
2.2.2 ネットワークとプロキシの問題
インフラの問題はハードウェアだけではありません。ネットワーク環境にも課題がありました。
2.2.2.1 AOSP clone時のプロキシ越えの障壁
先述のAOSP(Android Open Source Project)のような大規模なオープンソースプロジェクトのコードをインターネット上から取得(clone)しようとすると、社内ネットワークのプロキシサーバーが大きな壁となりました。プロキシの設定が複雑だったり、特定のサイトへのアクセスが制限されていたりするため、必要なリソースにアクセスするのに苦労しました。ソフトウェア開発では、インターネット上の様々な情報やツール、ライブラリを活用することが日常茶飯事ですが、この基本的なインフラ部分が整備されていないと、文字通り身動きが取れなくなってしまいます。
2.2.2.2 通信帯域の圧迫とその影響
ようやくプロキシを突破できたとしても、今度は社内ネットワーク全体の通信帯域を圧迫してしまう問題が発生しました。多数のエンジニアが同時に大規模なファイルをダウンロードしたり、クラウドと頻繁に通信したりすることで、ネットワーク速度が低下し、他の業務にも影響が出てしまうのです。これは、ソフトウェア開発に必要なデータ量や通信量が、従来の自動車開発の想定をはるかに超えていることを示しています。
2.2.3 社内承認プロセスの課題
こうしたインフラを整備するためには、当然ながら予算が必要になります。そして、その予算を獲得するためには、社内の承認プロセスを経る必要があります。
2.2.3.1 ソフトウェア理解の不足による説得の難しさ
前述の通り、承認権限を持つ部署の多くは、ソフトウェア開発の特殊性やニーズについて深い理解を持ち合わせていません。なぜ高性能なPCが必要なのか、なぜクラウド環境に投資すべきなのか、なぜネットワーク帯域を広げる必要があるのか、といった点を、彼らが理解できる言葉で説明し、納得してもらうのは至難の業です。例えば、「開発PCに数〇万円もかける必要があるのか?」「クラウドはセキュリティが心配だ」といった反応は珍しくありませんでした。ソフトウェア開発における効率向上や、技術負債(古い技術や非効率なプロセスによって将来発生するコスト)のリスクといった概念を伝えるのが非常に難しいのです。
2.2.3.2 稟議制度とその影響
伝統的な日本の大企業に多く見られる稟議制度は、複数の部署の合意形成を図る上では有効な側面もありますが、変化のスピードが速いソフトウェア開発においては、その柔軟性や迅速性を著しく阻害します。稟議書作成、回覧、承認に数週間、場合によっては数ヶ月かかることもあり、その間に技術は進歩し、ビジネス環境は変化してしまいます。
2.2.3.2.1 社内チェックの厳格さと記事削除の背景
そして、この承認プロセスの厳格さは、情報発信にも影響を与えている可能性があります。筆者の元のブログ記事が一時的に削除された件(参考:takutakuma氏のX投稿, tyhe氏のX投稿)は、まさに社内チェックの厳格さ、あるいは社外への情報発信に対する組織の慎重な姿勢を反映していると考えられます。公開前に社内での承認プロセスを経た記事が、公開後に何らかの理由(例えば、外部からの反応や、特定の部署からの指摘など)で削除されたとすれば、それは情報発信に対する組織内の複雑な力学や、リスク回避の姿勢を示唆しています。
2.2.3.2.2 社内政治的な意図とその影響
なぜ記事が削除されたのか、その真意は外部からは分かりません。しかし、SNSでの反応(crosscrow氏のX投稿)にもあったように、一部には「社内政治的な意図があったのではないか」という推測も生まれています。ソフトウェア開発部門が自らの課題を率直に発信することで、他の部署(例えば機械系部門や管理部門)にとって都合の悪い事実が露見したり、組織の遅れが強調されたりすることを懸念した、といった可能性もゼロではありません。このような社内政治的な力学が働く環境では、率直な問題提起や建設的な議論が阻害され、組織全体の変革が遅れるリスクがあります。
コラム:彼の開発環境遍歴とインフラへの愛
彼はキャリアの初期から、自分の開発環境には結構こだわりがありました。特に、PCのスペックと自由に使えるサーバーリソースは、エンジニアの生産性に直結すると考えています。自宅のデスクトップPCは、仕事で使うよりもハイスペックだった時期も(笑)。自動車会社に来て、ノートパソコン一台になったときは、まるで手足を縛られたような感覚でした。特に、重い処理を走らせている間、PCが熱くなってファンがブンブン唸り、まともに他の作業ができない…というのは、ソフトウェアエンジニアにとっては結構なストレスなんです。😫 この経験を通じて、改めて「開発インフラは空気と同じくらい大切なんだ!」と痛感しました。ソフトウェア企業では当たり前だと思っていた環境が、実は非常に恵まれていたのだと気づかされました。
2.3 高い能力を持つ人材の存在
さて、ここまで自動車業界におけるソフトウェア開発の課題について、少しネガティブな側面を中心にお話ししてきましたが、良い意味での驚きもありました。それは、「能力が高い人が多い」ということです。
2.3.1 主観的評価の背景と限界
もちろん、「能力が高い」というのは非常に主観的な評価です。テストの点数のように客観的な指標があるわけではありません。同僚、後輩、先輩、上司、そして他部署の方々…日々一緒に仕事をする中で、無意識のうちにその人の仕事ぶりや考え方を評価してしまうのは、人間の性かもしれません。彼自身も、どうしても自分の経験や価値観を基準にして評価してしまう癖があると思います。だからこそ、「自分が主観的に見ても能力が高いと感じる人が、ソフトウェアベンダー時代よりも多い」という事実は、ある程度客観的な根拠があるのではないかと感じています。
2.3.1.1 能力評価の基準とその主観性
彼が「能力が高い」と感じるのは、例えば記憶力の良さ、論理的思考の速さ、複雑な事柄を整理して分かりやすく説明する能力、困難な問題に粘り強く取り組む姿勢、ドメイン知識の豊富さなど、多岐にわたります。これらの能力は、ソフトウェア開発そのものだけでなく、あらゆるビジネスやエンジニアリングの現場で求められる普遍的なものです。ソフトウェアベンダー時代にも優秀なエンジニアはたくさんいましたが、自動車業界では、そうした普遍的な能力に長けた人が層として厚いように感じました。
2.3.1.2 ソフトウェアベンダーとの比較
ソフトウェアベンダーは、特定の技術分野や製品に特化していることが多いですが、自動車メーカーは、研究開発から生産、販売、さらには金融やモータースポーツまで、非常に幅広い領域をカバーしています。そのため、多様なバックグラウンドを持つ人材が集まり、それぞれの分野で高い専門性と経験を積んでいます。彼の「能力が高い人が多い」という印象は、もしかすると、彼がそれまで知らなかった自動車開発という分野における高度な専門性や、それを支える基礎的な能力に触れたことによるものかもしれません。
2.3.2 自動車業界の人材採用の強み
彼の個人的な主観だけでなく、客観的な事実として、日本の大手自動車メーカーは、新卒・中途採用市場において非常に競争力があり、優秀な人材を継続的に採用できているという側面もあるでしょう。ブランド力、安定性、そして世界的な舞台でモノづくりに携われるという魅力は、多くの求職者にとって大きな魅力です。
2.3.2.1 新卒・中途採用の競争力
特にエンジニア職においては、国内外のトップクラスの大学から優秀な学生が集まります。また、中途採用においても、様々な分野で経験を積んだ優秀な人材が集まってきます。こうした人材プールの厚さが、「能力が高い人が多い」という印象につながっていると考えられます。
2.3.2.2 高い能力がもたらす業務効率化
そして、この高い能力を持つ人材は、ソフトウェア開発の現場においても大きな力を発揮します。前述の通り、ソフトウェア開発の経験やインフラが不足している状況でも、彼らは驚異的なスピードで新しい知識や技術を吸収し、業務に適応していきます。ソフトウェア開発の進め方や基礎知識について説明すると、彼らはすぐにそれを理解し、既存の自動車開発の知見と結びつけて応用していくのです。これは、ソフトウェア開発の課題を乗り越える上で、非常に強力な推進力となります。
2.3.2.2.1 知識補充後の迅速な適応力
例えば、新しいクラウドサービスの概念や使い方を説明すると、彼らはすぐにそれを理解し、自分たちの業務にどう応用できるかを考え始めます。プログラミング言語の文法を教えれば、既存の膨大な設計書や仕様書を読み解き、必要なコードを書き始めます。この知識補充後の迅速な適応力は、ソフトウェア開発経験が少ないというハンディキャップを大きく補って余りあるものです。
2.3.2.2.2 ボトムアップカルチャーの影響
また、Hondaにはボトムアップカルチャー(参考:izoc氏のX投稿)が根付いていると言われています。現場のエンジニアが自ら課題を見つけ、改善提案を上げていく風土です。能力の高い人材が多ければ、こうしたボトムアップの活動も活発になり、組織全体の学習能力や問題解決能力が高まります。これは、ソフトウェア開発の課題に対しても、現場からの自発的な改善が進む可能性を示唆しています。
コラム:会議での「なるほど!」と「えっ?」
自動車会社での会議は、新しい発見の連続です。特に、メカニズムや生産プロセスに関する議論は、ソフトウェアしか知らなかった彼にとっては全てが新鮮で、まるで魔法を見ているようでした。「なるほど、そういう仕組みで動いているのか!」と感心することしきりです。一方で、ソフトウェア開発の進め方やツールに関する議論になると、「えっ?まだそんな方法でやっているの?」と驚くことも…。このギャップこそが、異業種転職の面白さであり、同時に難しさでもあります。お互いの専門性を尊重しつつ、より良い方法を模索していく。その過程で、彼自身の視野も大きく広がったと感じています。🧐🤝
2.4 労働組合の役割と実態
最後に、ソフトウェア開発そのものとは少し離れますが、Hondaに転職して個人的に大きな気づきとなったのが、「労働組合の正体」です。
2.4.1 労働組合の活動内容とその影響
日本では、労働組合がない企業の方が多数派かもしれません。彼自身も、自動車会社に入るまでは「春闘」のニュースを他人事として見ていました。自動車会社では、管理職でなければ入社と同時に労働組合に加入するのが一般的です。毎月、給与から一定額の組合費が天引きされます。
2.4.1.1 給与・ボーナス交渉のメリット
労働組合の最も主要な活動の一つは、企業側と組合員(従業員)の労働条件について交渉することです。特に、給与やボーナスの水準を決める「春闘」は、ニュースでも大きく取り上げられます。自分の代わりに組合が会社と交渉し、給与水準のベースアップやボーナスの月数を勝ち取ってくれる。これは、個々人が会社と直接交渉するよりも、組織として交渉する方が有利に進められるため、組合員にとっては具体的なメリットとなります。彼自身も、組合費以上の経済的なメリットは享受できていると感じています(参考:osakana110氏のX投稿)。
2.4.1.2 組合活動の負担とその影響
一方で、労働組合の活動は給与交渉だけではありません。組合運営のための会議や、時には各部署から組合活動の「係」が選出されることもあります。係になった人は、通常の業務に加えて組合関連の仕事が増えることになります。これは、現場のエンジニアにとっては少なからず負担となります。
2.4.1.2.1 選挙応援の要求とその問題点
そして、彼が個人的に驚き、かつ一部で話題にもなったのが、労働組合が特定の政党や候補者(労働組合と関係の深い市議、県議、国会議員など)への投票や応援を組合員に求めることがある、という点です(参考:hatayasan氏のX投稿, augsUK氏のX投稿, aarx氏のX投稿)。これは、労働組合が単なる経済団体としてだけでなく、政治的な影響力を行使しようとする側面があることを示しています。個人の政治的思想信条は自由であるべきであり、組織から特定の政党への支持を求められることには、組合員として抵抗を感じる人もいるかもしれません。この点については、労働組合の透明性や、組合員の意見をどこまで反映しているのか、といった議論が必要だと感じます。
2.4.1.2.2 組合費とメリットのバランス
労働組合に加入し、組合費を支払うことは、給与交渉などのメリットと引き換えに、組合活動への参加や政治的な関与といった負担も伴う、ということを理解しました。このバランスを組合員一人ひとりがどう評価するのかは、個人の価値観によるところが大きいでしょう。
2.4.2 ソフトウェアエンジニアへの具体的な影響
では、こうした労働組合の活動は、ソフトウェアエンジニアの業務や労働環境に具体的にどのような影響を与えているのでしょうか。
2.4.2.1 労働環境改善への貢献
労働組合は、給与だけでなく、労働時間、休日、福利厚生、安全衛生など、幅広い労働条件について会社と交渉します。ソフトウェア開発部門の長時間労働の是正や、リモートワーク環境の整備、柔軟な労働時間制度の導入などについて、組合が会社に働きかけることで、エンジニアの労働環境改善に貢献する可能性は十分にあります。特に、DX推進には新しい働き方が不可欠であり、労働組合がその変化を後押しする役割を担うことが期待されます。
2.4.2.2 技術革新への潜在的影響
一方で、労働組合の保守的な側面が、技術革新や新しい開発手法の導入を遅らせる可能性も懸念されます。例えば、新しいツールやクラウドサービスの導入が、既存の職務内容や雇用形態に影響を与える可能性がある場合、組合が慎重な姿勢をとることも考えられます。ソフトウェア開発の世界は変化が速いため、労働組合がそのスピード感についていき、技術革新を阻害しないような活動を行うことが重要になります。
2.4.2.2.1 労働組合の政治的関与の議論
前述の政治的関与についても、議論が必要です。特定の政党との結びつきが強すぎると、政策決定の際に労働組合の意向が反映されやすくなる一方で、それが産業全体の競争力や技術革新に必要な規制緩和などを妨げる可能性も否定できません。労働組合が本当に組合員全体、特にデジタル分野のエンジニアの利益を代表するためには、活動の透明性を高め、多様な意見を反映できる仕組みを強化する必要があるでしょう。
2.4.2.2.2 社内での透明性と発信の課題
労働組合の活動や意思決定プロセスは、一般の組合員には見えにくい部分も多いと感じています。どのような議論が行われ、何が決定されているのか、その情報がもっと透明に、そして分かりやすく組合員に伝えられることで、組合への理解や関与も深まるのではないかと思います。これは、先に述べた企業の情報発信の課題とも共通する点です。
コラム:春闘の舞台裏?
入社して初めて、自分が給与明細から組合費を払っている、そしてその組合が会社と交渉している、という事実を肌で感じました。普段の業務では組合の活動を意識することはほとんどないのですが、春闘の時期になると、社内で組合のビラが配られたり、集会のお知らせがあったりします。組合の代議員の方々が、彼たちの代表として会社の経営層と交渉している。そう考えると、普段は遠い存在に感じられる「経営」や「労働環境」といったものが、自分たちの生活と直結しているのだと改めて実感します。選挙応援の要求には少し驚きましたが、これもまた日本の大企業の「リアル」の一端なのかもしれませんね。🤷♂️
第3章 新たな技術トレンドと自動車業界
彼がHondaに転職して感じた課題は、自動車業界全体が直面している大きな技術トレンドと無関係ではありません。Software Defined Vehicle(SDV)の台頭、AIやLLMの進化、そしてオープンソースの浸透といった波は、伝統的な自動車メーカーのビジネスモデルや開発手法を根底から変えようとしています。この章では、これらのトレンドが自動車業界、そしてHondaにどのような影響を与えているか、彼の視点から考察します。
3.1 Software Defined Vehicle(SDV)の台頭
近年の自動車業界で最も注目されているキーワードの一つが、Software Defined Vehicle(SDV)です。これは、自動車の価値や機能が、ハードウェアではなくソフトウェアによって大きく左右される、という考え方に基づいています。
3.1.1 SDVの概念とその重要性
これまでの自動車は、設計段階でハードウェアの仕様がほぼ全てを決定し、ソフトウェアはそれを制御するための「部品」という位置づけでした。しかしSDVでは、ソフトウェアのアップデートによって新しい機能が追加されたり、性能が向上したり、ユーザー体験が大きく変化したりします。スマートフォンがOSやアプリのアップデートで常に進化し続けるように、自動車も購入後もソフトウェアによって進化する製品となるのです。これにより、自動車メーカーは、製品ライフサイクル全体で顧客との関係を維持し、継続的にサービスを提供できるようになります。
3.1.1.1 ソフトウェアによる自動車の再定義
SDVは、自動車を単なる移動手段から、モビリティサービスを提供するためのインテリジェントなプラットフォームへと再定義します。自動運転、コネクテッドサービス、インフォテインメントシステムの高度化など、自動車の進化の多くはソフトウェアによって実現されています。このため、ソフトウェア開発能力は、自動車メーカーにとって単なる技術力の一部ではなく、製品の競争力を決定づける核となる要素となっています。
3.1.1.2 HondaのSDVへの取り組み
Hondaも例外なく、SDVへの対応を加速させています。デジタルプラットフォーム開発部がAWSを活用してプラットフォームを構築しているのも、このSDV戦略の一環と言えるでしょう。車載ソフトウェアだけでなく、それらを支えるクラウドシステムや、ユーザー向けのモバイルアプリといったソフトウェア全体をシームレスに連携させることが求められています。
3.1.1.2.1 新会社設立とその戦略
3.1.1.2.2 自動運転とコネクテッドカーの展望
自動運転やコネクテッドカーといった最先端技術は、まさにSDVの実現なくしては成り立ちません。車両に搭載されたセンサーデータや、ユーザーの運転データ、インフラ情報などをリアルタイムで処理し、車両の挙動やサービス提供に反映させるには、高度なソフトウェアプラットフォームと、それを支える開発体制が必要です。彼が関わっているデジタルプラットフォームは、まさにこの自動運転やコネクテッドカーといった未来のモビリティサービスを実現するための基盤となるものです。
3.1.2 グローバル競争とSDVの影響
SDVへのシフトは、自動車業界のグローバルな競争構造にも大きな変化をもたらしています。
3.1.2.1 TeslaやBYDとの比較
ソフトウェア開発を最初から内製化し、アジャイルな開発手法を取り入れてきたTeslaは、このSDV時代において先行者利益を享受しています。OTA(Over-The-Air)アップデートによる頻繁な機能追加や改善は、既存の自動車メーカーにはない強みとなっています。また、中国のBYDのような新興EVメーカーも、IT企業のようなスピード感でソフトウェア開発を進めており、日本の自動車メーカーは厳しい競争にさらされています(参考:東洋経済オンライン記事「自動車業界のデジタル化、遅れる日本勢」(のリンク))。
3.1.2.2 日本の自動車メーカーの課題
日本の自動車メーカーは、高いハードウェア品質と生産技術で世界をリードしてきましたが、ソフトウェア開発においては、歴史的にサプライヤーへの依存度が高く、内製開発の経験やノウハウが不足しているという課題を抱えています(詳細はこちら)。彼がHondaで感じた「ソフトウェア経験者の不足」や「インフラの未整備」といった課題は、まさに日本の自動車メーカーがSDV時代に適応する上で乗り越えなければならない壁なのです。
コラム:テスラの車内アップデートを見た時の衝撃⚡
ソフトウェアエンジニアとして、テスラがOTAアップデートで新しいゲーム機能を追加したり、走行性能を向上させたりしているのを見た時は、本当に衝撃でした。「車って、納車された時が完成形じゃないんだ!」と。それまでの自動車開発の常識が覆された瞬間でした。自分が開発したソフトウェアが、インターネットを通じて世界中の車に届けられ、お客様の体験をリアルタイムで変えていく。そんなダイナミズムは、ソフトウェア開発者として非常に魅力的です。Hondaでも、近い将来、お客様が「ソフトウェアアップデートで、新しい機能が追加された!」とワクワクするような体験を提供できるようになりたいですね。アップデートで車の表情が変わる、なんてことも夢じゃないかもしれません。😊
3.2 AIとLLMの自動車業界への応用
近年急速に進化しているAI、特に大規模言語モデル(LLM)も、自動車業界、そして彼たちのソフトウェア開発のあり方に大きな影響を与え始めています。
3.2.1 大規模言語モデル(LLM)の可能性
LLMは、大量のテキストデータで学習されたAIであり、自然な文章を生成したり、翻訳、要約、質問応答など、様々なタスクをこなすことができます。そして、その能力はソフトウェア開発の分野にも及んでいます。コードの自動生成、既存コードの解説、バグの特定や修正提案など、様々な場面での活用が期待されています。
3.2.1.1 コード生成とデバッグへの活用
LLMを活用することで、定型的なコードの記述時間を短縮したり、新しいライブラリの使い方を調べたりする効率を上げることができます。例えば、「Pythonで〇〇のライブラリを使って、CSVファイルを読み込むコードを書いて」と指示すれば、ある程度のコードスニペットを生成してくれます。これにより、エンジニアはより創造的で高度なタスクに集中できるようになる可能性があります。また、エラーメッセージの原因究明や、デバッグのヒントを得るためにも役立ちます(参考:#LLM に “より良い code” を書くように要求し続けると、LLM はより良いコードを書くことができますか?)。
3.2.1.2 幻覚問題とその課題
しかし、LLMは万能ではありません。「幻覚問題」(Hallucination)と呼ばれる、もっともらしいが事実に基づかない情報を生成する問題が指摘されています。これは、特に正確性が求められるソフトウェア開発においては大きな課題となります。
3.2.1.2.1 PolarsとPandasでの具体例
例えば、Pythonのデータ分析ライブラリであるPolarsとPandasのような、類似しているが細部が異なるライブラリについて、LLMにコード生成を依頼すると、Polarsのコードを書いているつもりでPandasの書き方が混ざってしまったり、存在しない関数を生成したりすることがあります(参考:【激白】売れっ子ブロガーが明かすLLM活用術)。最新の情報やニッチなライブラリに関する知識が不足している場合、この「幻覚」が発生しやすくなります。
3.2.1.2.2 LLMのコード品質向上の限界
また、「より良いコード」を書くように繰り返し指示しても、LLMが常に人間が書くような高品質で保守性の高いコードを生成できるとは限りません。アーキテクチャ設計や、複雑な要件を満たすためのコード構造など、人間ならではの思考や経験が必要な領域はまだ多く残されています。LLMはあくまで強力な「支援ツール」として捉える必要があり、生成されたコードの検証と修正は不可欠です。
3.2.2 Agent2Agent(A2A)プロトコルの導入
AIの進化は、LLMだけでなく、AI同士が連携してタスクを遂行する「マルチエージェントシステム」にも及んでいます。Googleが提唱するAgent2Agent(A2A)プロトコル(参考:AIたちがチーム結成!Google発「A2A」で仕事が激変する未来 Agent2Agent (A2A) プロトコル入門,)は、このマルチエージェントシステムを実現するための重要な技術となり得ます。
3.2.2.1 A2Aの概要と自動車業界への適用可能性
A2Aプロトコルは、異なるAIエージェント(特定のタスクを実行するAIプログラム)が、互いの能力を認識し、連携して複雑なタスクを自動的に遂行するための通信規約です。例えば、「車のエアコンの温度を最適に調整して」という指示に対して、「車内温度センサーエージェント」「外気温センサーエージェント」「乗員検出エージェント」「エアコン制御エージェント」などがA2Aプロトコルを通じて連携し、最適な温度設定を決定・実行するといった応用が考えられます。これは、自動車という複雑なシステムにおけるソフトウェア間の連携を、より柔軟かつ自律的に行う上で非常に有効なアプローチです。
3.2.2.2 セキュリティと認証方式
AIエージェント間の連携においては、セキュリティが極めて重要です。A2Aプロトコルでは、OpenAPIの認証スキームに準拠し、安全な通信のためにHTTPS/TLSといった標準技術が用いられると考えられています(参考)。これは、自動車のような高い安全性が求められるシステムにおいては不可欠な要素です。
3.2.2.2.1 OpenAPI認証スキームとHTTPS/TLS
OpenAPI認証スキームは、API(アプリケーションプログラミングインターフェース)のセキュリティを確保するための標準的な方法論を提供します。また、HTTPS/TLSは、インターネット上での安全なデータ通信を保証するための暗号化プロトコルです。これらの技術を用いることで、悪意のあるエージェントによるなりすましや、通信内容の傍受・改ざんを防ぐことができます。
3.2.2.2.2 JSON-RPC 2.0とServer-Sent Events(SSE)
A2Aプロトコルの具体的な通信方式としては、軽量なRPC(Remote Procedure Call)プロトコルであるJSON-RPC 2.0や、サーバーからクライアントへ一方的にデータを送信するためのServer-Sent Events(SSE)などが想定されています(参考)。これらは、AIエージェント間の効率的かつリアルタイムな通信を実現するために適した技術と言えます。
3.2.2.3 マルチエージェントシステムの構築
A2Aプロトコルを活用することで、自動車内の様々なシステム(エンジン制御、ブレーキ制御、インフォテインメント、センサー類など)を、それぞれ独立したAIエージェントとして構築し、それらが互いに連携して高度な機能を実現するマルチエージェントシステムを構築できるようになります。
3.2.2.3.1 Agent Cardによる能力発見
A2Aプロトコルでは、各エージェントが自身の能力や提供できるサービスを記述した「Agent Card」のような情報を持つことが想定されています(参考)。これにより、他のエージェントは、ネットワーク上のどのようなエージェントが存在し、どのような機能を利用できるのかを動的に発見し、連携を構築することが可能になります。これは、自動車の機能が多様化し、複雑化する中で、システム全体の柔軟性や拡張性を高める上で重要な仕組みです。
3.2.2.3.2 タスク管理とコラボレーション
マルチエージェントシステムでは、一つの大きなタスクを、複数のエージェントが連携して分担して遂行します。A2Aプロトコルは、エージェント間でのタスクの割り当て、進捗共有、結果の集約といったコラボレーションを円滑に行うための仕組みを提供します。これにより、より複雑で高度な機能を、複数の独立したソフトウェアモジュールの連携によって実現できるようになります。
コラム:LLM、君は頼れる相棒?それとも…?🤔
正直、LLMはもう手放せないツールになりつつあります。特に、新しい言語やライブラリをちょっと試したい時、サクッとコードを書いてくれるのは本当に便利です。まるで、いつでも質問に答えてくれるベテランエンジニアが隣にいてくれるみたい。でも、時々自信満々に間違ったコードを生成したり、存在しないAPIを教えてくれたりするんですよね…😅 その「幻覚」を見たときは、「あぁ、やっぱり鵜呑みにはできないな…」と苦笑いしてしまいます。LLMを相棒としてうまく使いこなすには、その限界を理解し、常に批判的な視点を持つことが重要だと感じています。自動車開発のように安全性や信頼性が最優先される分野では、特にこの検証作業が重要になりますね。
3.3 オープンソースと自動車業界
ソフトウェア開発のトレンドとして、オープンソースソフトウェアの活用も避けて通れません。自動車業界も例外なく、オープンソースの影響を受けています。
3.3.1 オープンソースソフトウェアの活用
LinuxのようなOSから、開発ツール、ライブラリ、フレームワークまで、ソフトウェア開発の世界はオープンソースの上に成り立っていると言っても過言ではありません。オープンソースソフトウェア(OSS)は、ソースコードが公開されており、誰でも自由に利用、改変、再配布することができます。
3.3.1.1 LibreOfficeやZetaOfficeの可能性
例えば、オフィススイートの分野でも、Microsoft Officeの代替としてLibreOfficeのようなOSSが存在します。最近では、ブラウザ上でLibreOfficeを利用できるZetaOfficeのようなプロジェクトも登場しており(参考:#ZetaOfficeとは何か?ブラウザ内の LibreOffice)、これもOSSの進化の一例と言えます。自動車メーカーでも、社内業務システムや開発ツールとして、こうしたOSSを活用する可能性は十分に考えられます。
3.3.1.2 コスト削減と自由度の向上
OSSを活用する大きなメリットは、ライセンス費用がかからないことによるコスト削減です。特に大規模な組織では、ソフトウェアライセンス費用がITコストのかなりの部分を占めることがあります。OSSを導入することで、このコストを削減し、その分を他の重要な投資(例えば、新しい開発インフラの整備など)に回すことができます。
3.3.1.2.1 オープンソースの導入事例
自動車業界でも、車載OSとしてLinuxベースのAGL(Automotive Grade Linux)が開発されたり、自動運転のシミュレーション環境にOSSが利用されたりと、様々な形でOSSが導入されています。彼の所属する部署がAWSを活用しているのも、OSSの技術(Linux、Docker、Kubernetesなど)の上に成り立っているクラウドサービスを利用しているという点では、OSS活用の広がりと言えます。
3.3.1.2.2 自動車業界への適用可能性
オフィスソフトや開発ツール以外にも、データ分析、機械学習、セキュリティといった幅広い分野で、高品質なOSSが多数存在します。これらを積極的に活用することで、開発のスピードアップ、技術負債の削減、そして特定のベンダーへの依存からの脱却といったメリットが期待できます。ただし、OSSの利用には、セキュリティリスクへの対応や、コミュニティとの連携、社内でのOSS人材の育成といった課題も伴います。
3.3.2 オープンソースコミュニティの動向
OSSは、世界中の開発者が協力して開発を進めるコミュニティ活動によって成り立っています。このコミュニティの動向を把握することは、最新の技術トレンドを理解する上で非常に重要です。
3.3.2.1 Open Deep Researchプロジェクトの影響
例えば、AI研究の分野では、Open Deep Researchプロジェクトのような、AIを活用した研究プロセスそのものをオープン化しようとする動きも見られます(参考:#有料版はもう古い?無料で使える!Open Deep ResearchでAI研究(Deep Research)を始めよう!)。これは、AI研究を特定の企業だけでなく、コミュニティ全体で推進しようという試みであり、自動車業界におけるAI技術の活用にも影響を与える可能性があります。
3.3.2.2 マルチAIプラットフォームのサポート
Open Deep Researchプロジェクトが、Google Gemini、OpenAI GPT、Anthropic Sonnetといった複数のAIプラットフォームをサポートしているように、今後のソフトウェア開発では、特定のAI技術に依存するのではなく、複数のAIを組み合わせて活用する「マルチAIプラットフォーム」の考え方が重要になるかもしれません。これは、先述のA2Aプロトコルによるマルチエージェントシステム構築とも連携する概念であり、多様なAI技術を柔軟に組み合わせることで、より高度で複雑な機能を開発できるようになります。
コラム:OSSは友達!怖くないよ!🤝
自動車業界では、安全性や信頼性が最優先されるため、OSSの導入には慎重な姿勢が見られることがあります。「誰が作ったか分からないコードを車に入れて大丈夫なのか?」という懸念ですね。でも、実はインターネットのインフラや、彼たちが普段使っているスマートフォンの多くも、大量のOSSの上に成り立っています。重要なのは、OSSをブラックボックスとして使うのではなく、そのライセンス、セキュリティ、コミュニティの活動状況などを正しく理解し、適切に活用することです。OSSは、単なる無料のソフトウェアではなく、世界中の知恵が集まった宝庫です。この宝庫をうまく活用することが、自動車メーカーのソフトウェア開発力を飛躍的に向上させる鍵になると信じています!🔓💎
第4章 本論文に対する疑問点と多角的視点
彼の個人的な経験に基づくレポートは、自動車業界におけるソフトウェア開発の現状を伝える一つの側面を示しているに過ぎません。このレポートをより深く、多角的に理解するためには、いくつかの疑問点を投げかけ、様々な視点から考察することが重要です。
4.1 論文の主張への疑問
彼のレポートは、あくまで一ソフトウェアエンジニアの限られた経験に基づいています。そのため、客観的なデータや幅広い事例に基づかない、主観的な評価に偏っている可能性も否定できません。以下に、レポートの主張に対するいくつかの疑問点を挙げます。
4.1.1 データや事例の不足
「ソフトウェア経験者が少ない」「インフラが整っていない」といった主張は、彼の体感に基づいています。しかし、これをより説得力のあるものにするためには、具体的なデータや事例が必要です。
4.1.1.1 具体的なプロジェクト遅延やコストの例
例えば、ソフトウェア経験者の不足やインフラの未整備が原因で、具体的なプロジェクトがどの程度遅延したのか、あるいは開発コストがどの程度増大したのか、といった定量的なデータがあれば、課題の深刻さがより明確になります。また、これらの課題を克服するために、どのようなコスト(時間、労力、金銭)がかかったのか、具体的なエピソードを交えて示すことも重要です。
4.1.1.2 比較対象のソフトウェア企業の事例
彼がソフトウェアベンダーと比較して課題を感じた点についても、比較対象となるソフトウェア企業が具体的にどのような開発環境や組織文化を持っていたのかを明確にすることで、より客観的な比較が可能になります。企業の規模、事業内容、開発対象などによって、ソフトウェア開発のあり方は大きく異なるため、どのような企業との比較なのかを示すことは重要です。
4.1.2 主観的評価の限界
「能力が高い人が多い」という点についても、彼の主観的な評価に大きく依存しています。これは、彼がそれまで接してきたエンジニア層とは異なる種類の能力を持つ人々と多く出会ったことによる印象が大きいかもしれません。
4.1.2.1 能力評価の定量化の必要性
「能力」を定量的に評価するのは難しいですが、例えば、個人の学習スピードを測る指標、問題解決にかかる時間、コードの品質(バグ率など)、プロジェクトへの貢献度といった、何らかの客観的な指標を用いて評価を試みることも、多角的な視点を提供するために重要です。ただし、これらの指標も特定の開発手法や評価システムに依存するため、その評価基準自体についても議論が必要です。
4.1.2.2 客観的指標の導入可能性
例えば、社内で実施している技術研修の受講率や習熟度、Qiitaのような社内技術ブログでの発信件数、OSSへの貢献度、あるいは特定の技術認定資格の取得率といった、間接的な指標を用いることで、組織全体のソフトウェア技術力の一端を客観的に示すことができるかもしれません。もちろん、これらの指標だけで個人の能力全てを測ることはできませんが、レポートの主張に補強材料を与えることは可能です。
4.1.3 記事削除の背景とその影響
彼の元のブログ記事が一時的に削除された件は、読者の皆さんにとっても大きな疑問点の一つだと思います(参考:takutakuma氏のX投稿, tyhe氏のX投稿, crosscrow氏のX投稿)。
4.1.3.1 社内チェックと透明性の矛盾
通常、企業の公式ブログで発信する記事は、公開前に複数の部署による社内チェック(法務、広報、関連部門など)を経ているはずです。一度承認されて公開された記事が、後に削除されるというのは、この社内チェックプロセス自体に何らかの問題があったか、あるいは公開後に予期せぬ問題(例えば、特定の表現が社外に誤解を与えた、あるいは社内の一部から強い反発があった、など)が発生したことを示唆しています。これは、企業の情報発信における透明性と、社内コントロールのバランスという難しい課題を浮き彫りにしています。
4.1.3.2 社内政治的意図の可能性
SNSの反応にも見られたように、特に労働組合や社内政治に関する記述が、組織内の特定の層にとって都合が悪かったため削除されたのではないか、といった推測も生まれています。真実は分かりませんが、こうした推測が生まれること自体が、企業の情報発信に対する不信感や、組織内の透明性の課題を示唆しています。
4.1.3.2.1 削除によるマーケティングへの悪影響
率直な現場の声を伝える記事は、特にエンジニア採用において、企業のリアルな雰囲気を伝える上で非常に有効です。しかし、記事が削除されたという事実は、「この会社は都合の悪い情報は隠す」「正直な発言が許されない雰囲気がある」といったネガティブな印象を与えかねません(参考:sptkauf170氏のX投稿)。これは、優秀なソフトウェアエンジニアを惹きつけたい企業にとって、大きなマーケティング上の失敗と言えるでしょう。
4.1.3.2.2 社風と情報発信の課題
Hondaのボトムアップカルチャーという良い側面がある一方で、こと情報発信に関しては、組織全体としてリスク回避やコンプライアンスを過度に重視し、現場からの率直な情報発信を抑制する傾向があるのかもしれません。SDV時代においては、技術的な課題だけでなく、組織文化や情報発信のあり方も含めて、企業全体の変革が求められています。
4.2 多角的視点からの問いかけ
彼のレポートを、より広い文脈の中で理解するためには、様々な角度からの問いかけが必要です。
4.2.1 業界比較と技術スタックの分析
彼の経験はHondaでのものですが、他の自動車メーカーや、自動車業界以外の製造業ではどうでしょうか?
4.2.1.1 他の製造業(航空宇宙、電機)との比較
航空宇宙産業や電機産業といった他の製造業においても、高度な組み込みソフトウェア開発は古くから行われています。これらの業界と比較して、自動車業界のソフトウェア開発体制や文化にはどのような特徴があるのでしょうか? 安全性や信頼性への要求の高さ、製品サイクルの長さ、サプライヤーとの関係性など、共通点や相違点を比較することで、自動車業界特有の課題が見えてくるかもしれません。
4.2.1.2 Hondaの技術スタックの詳細
彼のレポートでは、AWSを活用していることに触れましたが、それ以外の開発環境や使用しているプログラミング言語、フレームワーク、開発ツールといった技術スタックの詳細は述べていません。これらの情報が分かれば、Hondaがどのような技術を選択し、それが開発効率やエンジニアの働き方にどのように影響しているのかをより深く理解できます。
4.2.2 組織文化とグローバル競争力
組織文化は、ソフトウェア開発の効率や品質に大きな影響を与えます。
4.2.2.1 日本の自動車業界のDXの現状
日本の自動車業界全体のDXは、世界的に見てどの程度のレベルにあるのでしょうか? 経済産業省のDXレポート(参考)などを見ても、製造業全体のDXは道半ばであることが伺えます。自動車業界特有の課題や成功事例を収集し、日本の自動車業界がDXを加速させるための具体的な方策を探る必要があります。
4.2.2.2 ボトムアップカルチャーとその影響
Hondaのボトムアップカルチャーは、現場の意見を吸い上げ、改善を促す良い側面がありますが、一方で、大きな方向転換や全社的な変革を必要とするDXにおいては、トップダウンの強力なリーダーシップも重要になります。ボトムアップカルチャーが、ソフトウェア開発におけるアジャイルな意思決定や迅速な方向転換とどのように両立できるのか、あるいは相克するのか、詳細な分析が必要です。
4.2.2.2.1 Hondaの社風とソフトウェア開発
「個人の尊重」「チャレンジ精神」といったHondaの社風は、ソフトウェア開発における創造性や主体性を引き出す上でプラスに働く可能性があります。しかし、同時に「失敗を恐れない」という文化が、品質や安全性が最優先される自動車開発においてどのようにバランスを取っているのか、ソフトウェア開発においても同様のバランス感覚が求められるのか、といった点は興味深い問いです。
4.2.2.2.2 機械系とソフトウェア系の対立
伝統的な組織構造の中で、機械系エンジニアが支配的な地位を占め、ソフトウェア部門との間に摩擦が生じている、という指摘は他の製造業でも聞かれる話です(参考:chintaro3氏のX投稿)。この部門間の対立が、情報共有や協業を阻害し、ソフトウェア開発の効率を低下させている可能性はないでしょうか? この対立を解消し、機械系とソフトウェア系が真に連携するための組織設計や文化醸成に関する研究が必要です。
4.2.3 A2Aプロトコルの適用可能性
A2Aプロトコルのような新しい技術は、自動車業界のソフトウェア開発にどのような変革をもたらす可能性があるのでしょうか?
4.2.3.1 自動車開発におけるエージェント間連携
自動車内の様々なシステム(エンジン、ブレーキ、センサー、インフォテインメントなど)をそれぞれ独立したエージェントとして構築し、A2Aプロトコルで連携させるというアイデアは、非常に魅力的です。これにより、各システムの開発を独立して進め、ソフトウェアのアップデートを個別に適用することが可能になるかもしれません。これは、開発の並列化と柔軟性を高める上で画期的なアプローチです。
4.2.3.2 セキュリティとスケーラビリティの課題
しかし、自動車のような高い安全性が求められるシステムにおいて、多数のエージェントがリアルタイムに連携する場合のセキュリティは極めて重要です。エージェント間の認証や認可、悪意のあるエージェントの検出や隔離など、強固なセキュリティ対策が不可欠です。また、数百、数千にも及ぶ可能性のあるエージェントが同時に通信を行う場合のスケーラビリティも大きな課題となります。通信帯域の制限や、リアルタイム性の保証など、解決すべき技術的な問題は山積しています。
4.2.4 労働組合の政治的関与の議論
労働組合が組合員に選挙応援を求めるという点は、日本の大企業の労働組合のあり方について、より広い議論を呼び起こす可能性があります。
4.2.4.1 選挙応援の要求とその影響
企業別労働組合が特定の政党や候補者を支援することは、日本の政治システムとの関係で歴史的な背景があります。しかし、これが個人の政治思想信条の自由を侵害する可能性はないか、あるいは、組合員全体の利益ではなく、特定の政治的な意図のために組合が利用されているのではないか、といった批判も生まれます。これは、企業の透明性やガバナンス(企業統治)の観点からも議論されるべき問題です。
4.2.4.2 労働組合の透明性とエンジニアの反応
特に、若い世代のエンジニアは、労働組合の活動内容や意思決定プロセスについて、より高い透明性を求める傾向があるかもしれません。彼らが、労働組合が本当に自分たちの利益(給与だけでなく、働きがいやキャリア形成なども含む)を代表していると感じられるかどうかが、今後の労働組合の存続や活動にとって重要になります。政治的な関与についても、組合員に対して十分な説明責任を果たし、開かれた議論を行うことが求められます。
コラム:あの記事、結局なんで消えたの?🤔
正直、彼もあの記事が削除されたのには驚きました。自分で書いたわけではないですが、同じ会社の人間として、そして現場の声を率直に伝えたものとして、共感する部分も多かったからです。社内では色々な憶測が飛び交いましたが、結局、公式な説明はありませんでした。個人的には、特定の表現が社外に誤解を与えかねない、と判断されたのかな?とも思いましたが、労働組合の政治活動に関する記述が原因だった、という見方も有力ですよね。もしそうだとすれば、それはそれで日本の大企業の根深い課題を露呈しているのかもしれません。透明性の高い情報発信が、これからの企業の信頼性を左右する時代なのに、ちょっと残念だな、というのが正直な気持ちです…🥺
第5章 歴史的位置づけ
彼のレポートで述べられている課題は、単なる一企業の現状というだけでなく、より大きな歴史的な流れの中に位置づけられるものだと考えています。自動車産業の変革、日本のソフトウェア産業の課題、そして労働組合の変遷といった文脈で、このレポートを捉え直してみましょう。
5.1 自動車産業のソフトウェア化の過渡期
現在、彼たちはまさに自動車産業が歴史的な転換点を迎えている時代に生きています。この転換期の最も大きな特徴は、自動車の価値の源泉が、ハードウェアからソフトウェアへと急速にシフトしていることです。
5.1.1 Software Defined Vehicleの歴史的背景
Software Defined Vehicle(SDV)という概念は、ここ数年で一気に注目されるようになりましたが、その背景には、自動車に搭載されるコンピュータの性能向上や、ネットワーク接続(コネクテッド技術)の普及といった技術的な進歩があります。
5.1.1.1 ハードウェア中心からソフトウェア中心へ
自動車開発は、長らく機械工学、材料工学、生産技術といったハードウェア技術が中心でした。ソフトウェアは、エンジンの制御やABS(アンチロックブレーキシステム)のような特定の機能を制御するための組み込みシステムとして存在していましたが、その重要性はハードウェアに比べて低い位置づけでした。しかし、自動運転、高度なインフォテインメントシステム、MaaS(Mobility as a Service)との連携などが現実となるにつれて、ソフトウェアが車の機能やユーザー体験、さらにはビジネスモデルそのものを決定する、という時代が到来しました。この「ハードウェア中心」から「ソフトウェア中心」へのシフトこそが、現在の自動車産業の最も大きな変化です。
5.1.1.2 グローバルな技術競争の文脈
このシフトは、自動車業界のグローバルな競争構造にも大きな影響を与えています。テスラのような新しいプレイヤーは、最初からソフトウェア開発を内製化し、IT企業のようなスピード感でイノベーションを起こしています。一方、伝統的な自動車メーカーは、長年培ってきたハードウェア開発の強みを持ちつつも、ソフトウェア開発体制の構築に苦戦しています。日本の自動車メーカーがこのグローバルな技術競争で生き残るためには、ソフトウェア開発能力の強化が喫緊の課題となっています。
5.1.2 Hondaの取り組みの位置づけ
Hondaがデジタルプラットフォーム開発部を設立し、AWSを活用してソフトウェア開発を強化している取り組みは、まさにこのSDV時代への適応に向けた、日本の伝統的な自動車メーカーによる挑戦として位置づけられます。
5.1.2.1 新会社設立とその戦略
ソフトウェア開発のための新会社設立といった報道も、既存の組織構造では限界があることを認識し、ソフトウェア開発に特化した体制を構築しようとする、Hondaの強い危機感と決意の表れと言えるでしょう。これは、日本の他の自動車メーカーも同様の課題に直面しており、組織改革や人材育成に力を入れている状況と共通しています。
5.1.2.2 日本の自動車産業全体との比較
日本の自動車産業は、歴史的にサプライヤー依存の傾向が強いと言われています。特にソフトウェア開発においては、電装部品メーカーなどのサプライヤーに開発を委託することが一般的でした。これにより、自動車メーカー自身にソフトウェア開発のノウハウが蓄積されにくかったという歴史的背景があります。
5.1.2.2.1 サプライヤー依存の歴史的背景
日本の自動車メーカーは、高品質な部品を供給する強力なサプライヤーネットワークを構築することで、高い生産性と品質を実現してきました。しかし、ソフトウェアが車の核となるにつれて、このサプライヤー依存のビジネスモデルが課題となってきました。サプライヤーに開発を「丸投げ」してきた結果、自動車メーカー自身がソフトウェアの全体像を把握し、迅速な変更や高度なカスタマイズを行うことが難しくなったのです。
5.1.2.2.2 技術開発の丸投げ問題
ソフトウェア開発をサプライヤーに委託する際、詳細な仕様書を作成し、その通りに開発してもらうというウォーターフォール型の開発プロセスが一般的でした。しかし、変化の速いソフトウェア開発においては、アジャイルな開発手法を取り入れ、試行錯誤を繰り返しながら仕様を固めていくことが重要です。サプライヤーへの「丸投げ」は、こうしたアジャイルな開発を困難にし、技術開発のスピードを遅らせる要因ともなりました。Hondaが内製開発を強化しようとしているのは、まさにこの課題を克服するためだと考えられます。
5.2 日本のソフトウェア産業の課題
自動車業界のソフトウェア化という課題は、日本のソフトウェア産業全体が抱える構造的な課題とも深く関連しています。
5.2.1 歴史的・文化的要因
日本のソフトウェア産業は、世界的に見て競争力が低い、あるいは特定の分野(組み込み系など)に偏っている、といった指摘がしばしばなされます。その背景には、いくつかの歴史的・文化的要因があると考えられています。
5.2.1.1 ティム・ロメロの分析に基づく考察
ソフトウェアエンジニアのティム・ロメロ氏のような識者は、日本のソフトウェアの質の低さや産業の停滞について、歴史的・文化的要因から鋭く分析しています(参考:#日本のソフトウェア産業を殺した忘れられた過ち)。彼の分析によれば、過去の特定の時期における技術選択の誤りや、ソフトウェア開発に対する社会的な評価の低さなどが、現在の日本のソフトウェア産業の課題に繋がっていると指摘されています。
5.2.1.2 ソフトウェアの質と競争力の低下
例えば、自動車業界で古くから使われているMISRAのようなコーディング規約(詳細はこちら)は、安全性が求められる組み込みシステム開発において重要な役割を果たしてきましたが、その厳格さが開発の柔軟性を損ない、新しい技術の導入を遅らせる要因にもなったという側面があります(参考:sgo2氏のX投稿)。このような古いルールや慣習が、ソフトウェア開発の質や生産性を低下させ、結果として国際的な競争力の低下を招いている可能性が指摘されています。
5.2.1.2.1 MISRAなど古いルールの影響
MISRA(Motor Industry Software Reliability Association)は、自動車向け組み込みソフトウェアの信頼性向上を目的としたコーディング規約です。安全性が極めて重要な自動車開発においては広く採用されています。しかし、アジャイル開発やOSS活用といった新しい開発手法との整合性が課題となる場合もあり、柔軟な対応が求められています。
5.2.1.2.2 日本のソフトウェア産業の停滞
これらの要因が複合的に影響し、日本のソフトウェア産業全体が、世界の技術トレンドの変化に十分に対応できていない状況が生まれています。自動車業界のソフトウェア開発の課題は、まさにこの日本のソフトウェア産業全体の課題の一端を反映していると言えるでしょう。
5.2.2 労働組合の歴史的役割
彼のレポートで触れた労働組合についても、日本の社会や企業経営における歴史的な文脈で捉える必要があります。
5.2.2.1 戦後から現代までの変遷
日本の企業別労働組合は、戦後の高度経済成長期において、企業の発展と従業員の生活向上を両立させる上で重要な役割を果たしてきました。労使協調路線の下、安定した雇用と賃金上昇を実現し、日本の独特な雇用システムの一部を形成しました。しかし、経済のグローバル化や産業構造の変化に伴い、労働組合のあり方も変化が求められています。
5.2.2.2 デジタル時代における再評価
デジタル化が進み、働き方や雇用の形態が多様化する中で、労働組合がどのように組合員の利益を代表し、企業や社会の変化に対応していくのかが問われています。特に、ソフトウェアエンジニアのような専門職にとって、従来の賃金交渉だけでなく、スキルアップ支援、キャリアパス、柔軟な働き方、情報公開といった点も重要な関心事となります。労働組合がこれらのニーズにどこまで応えられるか、その役割は再評価されるべき時期に来ています。
5.2.2.2.1 政治的関与の歴史的背景
労働組合が特定の政党を支持し、選挙応援を行う慣習は、戦後の政治状況や、特定の産業(石炭産業など)における労働運動の歴史に根ざしています。政党との連携を通じて、労働条件や社会保障制度の改善に影響力を行使しようとする意図があります。しかし、現代において、これが広く国民や組合員から支持されるかどうかは、個人の政治思想信条の多様化や、政治に対する意識の変化によって異なってくるでしょう。
5.2.2.2.2 組合と技術革新の関係
歴史を振り返ると、労働組合が新しい技術の導入に対して、雇用の減少や職務内容の変化を懸念して抵抗する姿勢を見せた事例も存在します。デジタル化やAIの普及といった技術革新が進む現代において、労働組合がどのように技術の変化を捉え、組合員の雇用を守りつつ、スキルアップや新しい働き方を支援していくのかは、非常に重要な課題です。
コラム:あの頃のクルマ、そしてこれからのクルマ🚗🔄💻
彼が子供の頃、車はまさに「鉄の塊」でした。エンジンの音、タイヤの焦げる匂い、マニュアルシフトの操作…五感で感じる物理的な存在感が大きかったです。もちろん、その頃から電子制御は使われていましたが、ソフトウェアが主役になるなんて、想像もしていませんでした。でも今、車はインターネットにつながり、スマホで遠隔操作でき、自分で考えながら走るようになっています。この変化のスピードは、技術の進化がいかに彼たちの日常を変えるかを物語っています。彼の親世代にとっては、車の進化というと燃費が良くなったり、安全性が高くなったりといったハードウェア的な改善が中心だったと思いますが、彼たちの世代、そしてこれからの世代にとっては、ソフトウェアによる「体験」の進化こそが、車の魅力の中心になるのではないでしょうか。この歴史的な変化の中に、自分自身がエンジニアとして関われていることに、改めてワクワクを感じています!🤩
第6章 日本への影響
彼のHondaでの経験は、単なる個人的な転職体験に留まらず、日本の自動車産業、ひいては日本の社会全体に様々な影響や示唆を与えるものだと考えています。この章では、このレポートが日本に与えるであろう影響について考察します。
6.1 自動車産業の競争力への影響
日本の自動車産業は、製造業の中でも特に国際競争力が高い分野として、長年日本経済を牽引してきました。しかし、Software Defined Vehicle(SDV)へのシフトは、この競争構造を大きく変えようとしています。
6.1.1 グローバル競争とソフトウェア開発
SDV時代においては、ソフトウェア開発能力が、自動車メーカーの競争力を決定づける最も重要な要素の一つとなります。彼がレポートで指摘した「ソフトウェア経験者の不足」や「インフラの未整備」といった課題は、日本の自動車産業がこのグローバル競争で劣勢に立たされるリスクを示唆しています。
6.1.1.1 SDV時代における日本の立ち位置
テスラや中国の新興EVメーカーがソフトウェアを武器に急速にシェアを伸ばしているのに対し、日本の自動車メーカーが従来のハードウェア中心の開発体制から脱却できなければ、国際市場でのシェアを失い、収益性が悪化する可能性があります。これは、日本の基幹産業である自動車産業全体の存続に関わる重大な問題です。
6.1.1.2 コスト増大と消費者への影響
ソフトウェア開発の効率が悪い場合、開発コストが増大します。このコスト増は、最終的に自動車の販売価格に転嫁される可能性があり、消費者の負担増につながります。また、開発の遅れは製品リリースサイクルの長期化を招き、競合他社の新しい機能やサービスに対して遅れをとることで、消費者からの魅力度が低下する可能性もあります。
6.1.1.2.1 開発コストの消費者価格への転嫁
高品質なソフトウェアを開発するためには、優秀なエンジニアの採用・育成、高性能な開発環境の整備、そして継続的なソフトウェアアップデートのための体制構築など、多大な投資が必要です。これらの投資が非効率に行われた場合、その費用が車両価格に上乗せされることで、消費者はより高価な自動車を購入せざるを得なくなります。
6.1.1.2.2 国際競争力の低下リスク
もし日本の自動車メーカーがソフトウェア開発でグローバルな潮流に乗り遅れた場合、高性能で魅力的なソフトウェア機能を持つ海外メーカーの車に市場シェアを奪われ、日本の自動車産業全体の国際競争力が低下するリスクがあります。これは、日本の輸出産業全体にも影響を与える可能性があります。
6.1.2 A2Aプロトコルの導入効果
Agent2Agent(A2A)プロトコルのような新しい技術は、日本の自動車産業がこの課題を克服するための突破口となるかもしれません。
6.1.2.1 エージェント間連携による効率化
A2Aプロトコルによって、自動車内の複雑なシステムをモジュール化し、独立したエージェントとして開発・管理できるようになれば、開発の並列化が進み、全体としての開発効率を大きく向上させることができます。異なる部署やサプライヤーが担当するシステム間連携も、標準化されたプロトコルを用いることでスムーズに行えるようになり、開発プロセスのボトルネックを解消できる可能性があります。
6.1.2.2 日本のDX遅れへの対応策
日本の多くの製造業がDXに苦戦している中で、自動車産業がA2Aプロトコルといった先進的な技術を導入し、ソフトウェア開発の効率化と内製化に成功すれば、これは日本のDXを加速させるモデルケースとなり得ます。自動車産業という巨大な産業が変わることは、他の産業への波及効果も期待できます。
6.2 人材育成と雇用の課題
自動車業界のソフトウェア化は、日本の人材育成や雇用の構造にも大きな影響を与えます。
6.2.1 ソフトウェア教育の必要性
自動車メーカーが内製でソフトウェア開発を行うためには、高度なスキルを持つソフトウェアエンジニアが大量に必要になります。彼がレポートで指摘した「ソフトウェア経験者の不足」は、日本の教育システムや企業内での人材育成が、この需要に応えきれていない現状を反映しています。
6.2.1.1 大学・企業での教育プログラムの不足
大学の情報系の学部では、ソフトウェア開発の基礎は学びますが、自動車開発のような特定のドメインに特化したソフトウェア開発(組み込みシステム、車載ネットワーク、機能安全など)に関する実践的な教育プログラムは不足しているのが現状です。また、企業内でのソフトウェア人材育成プログラムも、自動車開発の歴史の中で十分には整備されてきませんでした。日本の自動車産業がソフトウェア人材を確保・育成するためには、大学と企業が連携し、より実践的で自動車開発に特化した教育プログラムを構築する必要があります。
6.2.1.2 LLMを活用した教育の可能性
近年発展著しいLLMは、ソフトウェア教育のあり方を変える可能性を秘めています。LLMを活用することで、学生や若手エンジニアがコードの書き方やデバッグの方法をより効率的に学ぶことができるようになるかもしれません。
6.2.1.2.1 コード生成支援ツールの教育利用
LLMを活用したコード生成支援ツールは、プログラミング初学者がコードの構造や文法を理解する上で役立ちます。また、既存コードの解説を生成することで、他のエンジニアが書いたコードを理解するスピードを上げることも可能です。これらのツールを教育プロセスに組み込むことで、ソフトウェア学習のハードルを下げ、より多くの人材がソフトウェア開発に関心を持つようになることが期待されます。
6.2.1.2.2 社内トレーニングの強化
企業内でも、LLMを活用してカスタマイズされた社内トレーニング教材を作成したり、従業員が自律的に学習を進めるためのサポートシステムを構築したりすることが可能です。これにより、既存の機械系エンジニアがソフトウェア開発の知識やスキルを習得する「リスキリング」を効率的に進めることができるでしょう。彼がレポートで述べた「能力が高い人が多い」という点を活かすためにも、彼らがソフトウェアスキルを習得するための効果的なトレーニング環境の整備が不可欠です。
6.2.2 労働組合の影響
労働組合の存在は、自動車業界における雇用や労働条件に影響を与えます。
6.2.2.1 労働条件改善と技術革新のバランス
労働組合が労働条件の改善に貢献することは、従業員のモチベーションや定着率を高める上で重要です。しかし、技術革新の導入や新しい働き方(例えば、成果主義に基づく給与体系、リモートワーク、副業など)に対する組合の姿勢によっては、それが企業の柔軟性や競争力を損なう可能性もゼロではありません。労働組合は、組合員の利益を守りつつ、同時に産業全体の発展に必要な変化を受け入れるという、難しいバランスを取る必要があります。
6.2.2.2 組合活動の新たな役割
デジタル化が進む中で、労働組合には新たな役割が求められています。例えば、ソフトウェアエンジニアのスキルアップ支援、キャリアパスの相談、働きがいのある環境づくりといった点について、組合が会社に提言したり、具体的なプログラムを企画・実施したりすることが期待されます。また、多様なバックグラウンドを持つエンジニアの意見を組織に反映させるためのパイプ役となることも重要です。
6.2.2.2.1 選挙応援の議論とその影響
労働組合の政治的な関与に関する議論は、組合員だけでなく社会全体にとって重要です。労働組合が特定の政党を支援することが、組合員の意に沿わない場合、それは組合員からの信頼を失うことにつながります。また、政治的な結びつきが強すぎると、特定の業界や企業の利益が、国全体の政策決定に不当な影響を与える可能性も懸念されます。透明性を高め、組合員の多様な意見を尊重する姿勢が、今後の労働組合には求められます。
6.2.2.2.2 エンジニアのキャリア形成への影響
労働組合の活動が、エンジニアのキャリア形成に影響を与える可能性もあります。例えば、年功序列や終身雇用といった従来の雇用システムを強く維持しようとする場合、能力のある若手エンジニアの抜擢や、異動によるキャリアパスの多様化が阻害される可能性があります。技術革新のスピードが速いソフトウェア分野においては、個々のエンジニアが自身のスキルをアップデートし、柔軟なキャリアパスを描ける環境の整備が不可欠であり、労働組合もこの点を考慮した活動を行う必要があります。
6.3 企業イメージと採用への影響
最後に、彼のレポート、特に記事削除の件が、企業のイメージやソフトウェアエンジニアの採用に与える影響について考察します。
6.3.1 記事削除によるマーケティングの失敗
ブログ記事が一時的に削除されたという事実は、特にインターネット上で情報収集を行うソフトウェアエンジニアに対して、ネガティブな印象を与えてしまった可能性があります。
6.3.1.1 エンジニア採用へのマイナス効果
SNSでの反応にもあったように、「都合の悪い情報は隠す会社」「社内チェックが厳しすぎる会社」「正直な発言ができない会社」といったイメージは、透明性やフラットな文化を重視する傾向のあるソフトウェアエンジニアにとって、魅力的に映りません。ソフトウェアエンジニアは転職市場で引く手数多であり、働く環境や企業文化を重視して企業を選ぶ傾向が強いため、このようなネガティブなイメージは採用活動にとって大きなマイナスとなります。
6.3.1.2 顧客と投資家への印象の悪化
企業の透明性や情報発信の姿勢は、エンジニアだけでなく、顧客や投資家にも影響を与えます。特に、デジタル技術やソフトウェアが製品の核となるSDV時代においては、企業が技術的な課題や組織の現状についてどれだけオープンであるかが、信頼性を判断する基準の一つとなります。記事削除の件は、顧客や投資家に対しても「この会社は何か隠しているのではないか」「組織内に問題を抱えているのではないか」といった不信感を与えかねません。
6.3.2 透明性と情報発信の課題
記事削除の件は、企業の情報発信のあり方に課題があることを浮き彫りにしました。
6.3.2.1 社内チェックとSNS反応のギャップ
厳しい社内チェックを経て公開された記事が、いざ公開されるとSNSで大きな反響を呼び、結果的に削除に至ったという経緯は、社内での評価と社外、特にインターネット上のコミュニティでの反応との間に大きなギャップがあることを示しています。これは、企業がターゲットとする人材層(ソフトウェアエンジニア)や、彼らが情報収集を行うチャネル(SNSなど)の特性を十分に理解できていない可能性を示唆しています。
6.3.2.2 ポジティブな情報発信の必要性
企業は、課題を隠すのではなく、課題を認識し、それに対してどのように取り組んでいるのかを率直に、かつポジティブな姿勢で発信する必要があります。「ソフトウェア開発のインフラはまだ完璧ではありませんが、彼たちは〇〇のような取り組みを進めて、改善に力を入れています!」といったように、正直さと前向きな姿勢を示すことで、かえって共感や応援を得られる可能性があります。特に、製造業界のソフトウェアエンジニアからの情報発信を応援したいという声もあるように、現場からのリアルな声は、多くの人にとって価値のある情報となります。
コラム:記事削除の波紋とエンジニアコミュニティ🌊
あの記事が消えた後、SNSでは色々な意見が見られました。共感の声もあれば、「やっぱり大手はこうだよね」「正直な発言は許されないのか」といった失望の声も。彼たちが書く技術ブログや外部での発言は、個人的なものですが、同時に会社の顔として見られることもあります。特に、ソフトウェアエンジニアのコミュニティは横のつながりが強く、情報が瞬く間に拡散します。良い情報も悪い情報もすぐに広まります。企業が情報発信をコントロールしようとすればするほど、かえって不信感を招き、ネガティブな情報が広まってしまう。今回の件は、まさにその難しさを痛感させられました。これからの企業の情報発信は、もっとオープンで正直であるべきだと強く感じています。そして、彼たち現場のエンジニアも、建設的な情報発信を通じて、企業の変革に貢献していきたいと考えています。📣✨
第7章 今後の研究課題
彼のレポートで述べた課題や考察は、自動車業界におけるソフトウェア開発の現状の一端を示したに過ぎません。これらの課題を克服し、未来に向けて日本の自動車産業が競争力を維持・向上させていくためには、様々な分野でさらなる研究と実践が必要です。この章では、今後求められる研究課題について提案します。
7.1 人材育成モデルの構築
ソフトウェアエンジニア不足は、自動車業界にとって最も喫緊の課題の一つです。この課題を解決するためには、効果的な人材育成モデルの構築が不可欠です。
7.1.1 自動車業界向けの教育プログラム
一般的なソフトウェア開発スキルだけでなく、自動車開発特有の知識やスキルを習得できる教育プログラムが必要です。これには、企業内での研修プログラムだけでなく、大学や専門学校との連携も含まれます。
7.1.1.1 ソフトウェアスキルセットの標準化
自動車開発に必要なソフトウェアエンジニアのスキルセットを明確に定義し、業界全体で共有する標準を作成する研究。組み込みシステム、車載ネットワーク、機能安全規格(ISO 26262など)、サイバーセキュリティ(ISO 21434など)、クラウド開発、データ分析、AI/機械学習など、求められるスキルは多岐にわたります。これらのスキルレベルを定義し、評価基準を設けることで、育成目標を明確にすることができます。
7.1.1.2 社内トレーニングの強化
自動車メーカー社内におけるソフトウェアエンジニア育成プログラムの強化。特に、ハードウェア開発出身のエンジニアがソフトウェア開発スキルを習得するためのリスキリングプログラムや、若手エンジニア向けのメンターシップ制度など、実践的なトレーニング機会の提供に関する研究。
7.1.1.2.1 実践的な開発環境の提供
教育プログラムの中で、実際の自動車開発に近い環境(例えば、シミュレーターやテストベッド)を提供し、実践的な演習を行うための研究。座学だけでなく、手を動かしながら学ぶことで、スキル習得の効率を高めることが重要です。
7.1.1.2.2 外部専門家との連携
ソフトウェア開発や教育に関する外部の専門家(大学の研究者、IT企業のコンサルタント、フリーランスのエンジニアなど)と連携し、最新の技術や開発手法を取り入れた教育プログラムを共同で開発・実施する研究。
7.1.2 LLMとA2Aの教育への応用
LLMやA2Aプロトコルといった新しい技術を、ソフトウェア教育にどのように活用できるかに関する研究。
7.1.2.1 コード生成支援ツールの活用
LLMを活用したコード生成支援ツールを、教育環境に導入し、学生や初学者の学習効率や理解度向上にどのように貢献できるかを評価する研究。生成されたコードの品質評価や、 LLMの「幻覚」問題への対応策も含みます。
7.1.2.2 エージェント間連携のトレーニングシナリオ
A2Aプロトコルに基づいたマルチエージェントシステム開発を、教育題材として取り上げる研究。複数のAIエージェントを設計し、A2Aプロトコルを用いて連携させる演習を通じて、分散システム開発やAPI設計に関する実践的なスキルを習得させるためのトレーニングシナリオや教材開発。
7.2 インフラと組織文化の最適化
ソフトウェア開発を効率的に進めるためには、技術的なインフラと、それを支える組織文化の両面からの最適化が必要です。
7.2.1 クラウド活用の標準化
自動車開発におけるクラウド環境(AWS, Azure, Google Cloudなど)の最適な活用方法に関する研究。車載ソフトウェア開発、コネクテッドサービス、データ分析、CI/CD(継続的インテグレーション/継続的デプロイ)パイプライン構築など、様々な用途におけるクラウドサービスの選定基準や、セキュリティ対策、コスト最適化に関するベストプラクティスの確立。
7.2.1.1 AWSやAzureの導入拡大
特定のクラウドプロバイダー(例えばAWS)だけでなく、複数のクラウド(マルチクラウド)を活用するメリット・デメリットや、それぞれのクラウドが提供するサービス(機械学習プラットフォーム、データウェアハウスなど)の比較研究。これにより、開発対象や目的に応じて最適なクラウド環境を選択・構築できるようになります。
7.2.1.2 オープンソースツールの活用
ソフトウェア開発プロセス全体(要件管理、設計、実装、テスト、デプロイ、運用監視など)で活用できるオープンソースツールの調査と、自動車開発環境への導入可能性に関する研究。特に、セキュリティや機能安全が求められる分野でのOSS活用におけるリスク評価と対策策定も含みます。
7.2.1.2.1 LibreOfficeやZetaOfficeの導入
社内業務システムやドキュメント作成ツールとして、LibreOfficeやZetaOfficeのようなOSSオフィススイートを導入し、Microsoft Officeからの移行コストや、社内での受容性、業務効率への影響などを評価する研究。コスト削減だけでなく、カスタマイズ性やベンダーロックイン回避といったメリットも評価対象とします。
7.2.1.2.2 Open Deep Researchの活用
Open Deep ResearchプロジェクトのようなOSSプロジェクトを、社内のAI研究や技術調査にどのように活用できるかに関する研究。オープンコミュニティとの連携方法や、社内でのOSS貢献を促進するための仕組みづくりも含みます。
7.2.2 アジャイル開発と組織文化の融合
変化の速いソフトウェア開発に適したアジャイル開発手法と、自動車業界の伝統的な組織文化をどのように融合させるかに関する研究。アジャイル開発の導入プロセス、組織構造の再設計、チーム間のコミュニケーション促進、そしてアジャイルな価値観と品質・安全性を両立させるための方法論策定。
7.2.2.1 トップダウン構造の改革
意思決定のスピードを向上させるために、伝統的なトップダウン型の組織構造をどのように改革すべきかに関する研究。稟議制度のような承認プロセスを簡素化・迅速化するための具体的な仕組みづくりも含みます。
7.2.2.2 A2Aを活用したアジャイルプロセス
A2Aプロトコルによるマルチエージェントシステム開発を、アジャイル開発プロセスと連携させる研究。例えば、各エージェントの開発チームが独立してスプリント開発を行い、A2Aプロトコルを介して連携部分をインテグレーションしていく、といった開発モデルの検証。
7.2.2.2.1 ボトムアップカルチャーの強化
Hondaのボトムアップカルチャーを活かしつつ、ソフトウェア開発における自律的なチーム活動や、現場からの改善提案を組織全体の変革に繋げる仕組みづくりに関する研究。現場の成功事例を組織全体に展開するための方法論なども含みます。
7.2.2.2.2 機械系とソフトウェア系の協業
機械系とソフトウェア系のエンジニアが、それぞれの専門性を尊重しつつ、共通の目標に向かって効果的に協業するための組織設計やコミュニケーション手法に関する研究。合同チームの編成、相互理解のための研修、共通の開発ツールの導入などが考えられます。
7.3 セキュリティとスケーラビリティの強化
SDV時代において、自動車のソフトウェアのセキュリティと、システム全体のスケーラビリティは極めて重要な課題です。
7.3.1 A2Aプロトコルのセキュリティ課題
A2Aプロトコルを用いたマルチエージェントシステムにおけるセキュリティ確保に関する詳細な研究。多数のエージェントが存在する複雑なシステム全体としてのセキュリティアーキテクチャ設計、脆弱性診断、インシデント発生時の対応プロセスの構築。
7.3.1.1 認証・認可方式の標準化
OpenAPI認証スキームなどを参考に、自動車内のAIエージェント間通信における認証(誰が誰であるかを確認)および認可(何ができるか権限を付与)の標準的な方式を確立する研究。エージェントの種類や重要度に応じた多段階認証や、最小権限の原則に基づく認可設計などが含まれます。
7.3.1.2 企業向けセキュリティ対策の強化
自動車メーカーとして、自社のソフトウェア開発環境や、開発したソフトウェア自体のセキュリティ対策を強化する研究。セキュアコーディングの徹底、静的・動的解析ツールの導入、ペネトレーションテスト(侵入テスト)の実施、そしてセキュリティインシデント発生時の対応体制(CSIRTなど)の構築も含みます。
7.3.2 スケーラブルなエージェントシステム
A2Aプロトコルに基づいたマルチエージェントシステムを、自動車というリソースが限られた環境で、かつリアルタイム性が求められる中で、いかにスケーラブル(規模が大きくなっても性能を維持)に構築できるかに関する研究。
7.3.2.1 マルチエージェント環境のスケーラビリティ
自動車1台あたり、あるいはコネクテッドカー全体として、数百、数千、将来的には数万個のエージェントが連携することを想定し、それらが効率的に動作するためのアーキテクチャ設計、通信方式の最適化、リソース管理に関する研究。
7.3.2.2 LongPollingとWebSocketsの比較
エージェント間のリアルタイム通信において、JSON-RPC 2.0のような軽量プロトコルと、SSE(Server-Sent Events)やWebSockets(参考:#LongPollingとWebSockets:どちらを選ぶべきか?)といった通信方式を比較し、自動車開発の要件(リアルタイム性、通信帯域、省電力など)に最適な通信モデルを確立する研究。
7.3.2.2.1 自動車開発での通信方式の最適化
自動車内のネットワーク環境(CAN, Ethernetなど)や、車載コンピュータの処理能力といった物理的な制約を踏まえ、各エージェントがどの通信方式を選択し、どのように連携すれば、システム全体のパフォーマンスを最大化できるかに関する詳細な研究。
7.3.2.2.2 リアルタイム処理の課題
特に自動運転システムのように、ミリ秒単位のリアルタイム処理が求められるシステムにおいて、マルチエージェントシステムがどのように遅延なく、かつ信頼性高く動作できるか。タスクスケジューリング、優先度制御、フォールトトレランス(耐障害性)といった観点からの研究が不可欠です。
7.4 社内政治と情報発信の改善
組織内部の課題、特に社内政治や情報発信のあり方も、ソフトウェア開発の成否に大きく関わります。
7.4.1 社内稟議プロセスの改革
稟議制度に代表される社内承認プロセスを、変化の速いソフトウェア開発に適応させるための改革に関する研究。承認プロセスのデジタル化、承認権限の委譲、リスクベースでの承認レベルの見直し、そしてソフトウェア開発関連の投資判断基準の明確化。
7.4.1.1 ソフトウェア開発の予算確保の簡素化
ソフトウェア開発に必要なインフラ投資(開発機、クラウド利用料、ツールライセンスなど)や、人材投資(採用、教育)のための予算確保プロセスを、機械系開発の予算確保プロセスとは異なる、より迅速かつ柔軟な仕組みにする研究。サブスクリプションモデルの導入や、開発部門への一定の裁量権付与などが考えられます。
7.4.1.2 透明性の高い情報発信の確立
記事削除の件で露呈したような、企業の情報発信における課題を克服するための研究。社内チェックの基準の見直し、公開情報の範囲拡大、SNSなどでの情報発信に関するガイドライン策定、そして現場のエンジニアが安心して情報発信できるような文化醸成。
7.4.2 機械系とソフトウェア系の協業モデル
組織内部の部門間対立を解消し、スムーズな協業を実現するための研究。特に、機械系とソフトウェア系のエンジニアが、共通の目標に向かって連携するための組織構造、プロジェクト管理手法、そして相互理解を深めるためのワークショップや合同研修の実施。
7.4.2.1 部門間対立の解消策
部門間の壁を低くし、情報共有やリソースの融通を促進するための組織改革に関する研究。マトリックス組織の導入や、部門横断的なプロジェクトチームの設置、共通のKPI設定などが考えられます。
7.4.2.2 横串を刺すプラットフォームの構築
彼の所属するデジタルプラットフォーム開発部のような、組織全体に「横串」を刺すプラットフォーム部門が、どのように各開発部門や間接部門と連携し、組織全体のソフトウェア開発力を向上させていくかに関する研究。プラットフォームの機能拡張、利用促進のための支援、そして組織全体の共通理解醸成に向けた活動などが含まれます。
コラム:未来への研究、終わりのない旅🚀
ソフトウェアの世界は、本当に変化が速いです。昨日学んだ技術が、明日にはもう古くなっていることもあります。自動車業界もSDV時代になり、その変化のスピードはますます加速しています。彼がこのレポートで挙げた課題も、今日現在のものです。数年後には、また全く違う課題や技術が浮上しているかもしれません。だからこそ、研究や学びは終わりがありません。常に新しい情報に触れ、試行錯誤を繰り返し、昨日よりも少しでも良いものを目指していく。その姿勢こそが、エンジニアにとって最も大切だと感じています。そして、その学びや気づきを、一人で抱え込むのではなく、他の人と共有し、議論することで、さらに大きな成果に繋がる。このレポートが、そんな建設的な議論や、未来への研究のきっかけになれば、これほど嬉しいことはありません。一緒に、より良い未来のモビリティを作っていきましょう!✨🤝
第8章 結論
この本では、彼がソフトウェアエンジニアとしてHondaに転職し、そこで感じた自動車業界におけるソフトウェア開発のリアルな課題と可能性について、率直にお話ししてきました。最後に、これらの経験を通じて見えてきた自動車業界のソフトウェア化の未来、そして彼たちソフトウェアエンジニアに求められる役割について、改めて彼の考えをまとめたいと思います。
8.1 自動車業界のソフトウェア化の未来
Software Defined Vehicle(SDV)は、もはや遠い未来の話ではありません。自動車の価値がソフトウェアによって決まる時代は、すでに始まっています。日本の自動車メーカーがこの変化に適応できるかどうかが、今後の国際競争における日本の立ち位置を左右すると言っても過言ではありません。
8.1.1 Hondaの挑戦と可能性
彼が所属するHondaは、確かにソフトウェア開発の面で伝統的な課題を抱えています。しかし、同時に、ボトムアップカルチャーに代表される現場の力強さや、高い能力を持つ人材の存在といった強みも持っています。これらの強みを活かし、ソフトウェア開発の課題を克服できれば、HondaはSDV時代においても世界をリードする存在となり得るポテンシャルを持っています。
8.1.1.1 ソフトウェア開発力の強化策
ソフトウェア経験者の不足を解消し、開発インフラを整備するために、採用戦略の見直し、社内教育プログラムの強化、そして開発プロセスの抜本的な改革が必要です。彼がレポートで指摘した課題は、まさにHondaが今後優先的に取り組むべき領域を示唆しています。
8.1.1.2 A2Aプロトコルの導入による変革
Agent2Agent(A2A)プロトコルのような先進的な技術を積極的に導入し、自動車内のソフトウェアシステムをモジュール化・エージェント化することは、開発効率の向上だけでなく、システム全体の柔軟性や拡張性を高める上で非常に有効なアプローチです。これは、HondaがSDV時代をリードするための重要な差別化要因となり得ます。
8.1.1.2.1 エージェント間連携の未来
車内のあらゆる機能やセンサーがAIエージェントとして連携し、状況に応じて自律的に判断・実行する未来は、想像するだけでワクワクします。エアコンが乗員の好みだけでなく、車外の空気質や電力系統の負荷なども考慮して最適な運転モードを選択したり、ナビゲーションシステムが交通情報だけでなく、ドライバーの運転習熟度や車両の状態も考慮して最適なルートを提案したり…A2Aプロトコルは、そんな未来のモビリティ体験を実現するための鍵を握っています。
8.1.1.2.2 SDVの加速
A2Aプロトコルによってソフトウェア開発が効率化され、システム全体の柔軟性が高まれば、新しい機能の開発やアップデートをより迅速に行えるようになります。これは、SDVにおけるソフトウェアの進化サイクルを加速させ、常に最新の技術とサービスを顧客に提供できるようになることを意味します。結果として、Hondaの自動車が購入後も進化し続け、顧客満足度を高めることに繋がるでしょう。
8.1.2 ソフトウェアエンジニアの役割
この変革期において、彼たちソフトウェアエンジニアに求められる役割は非常に大きいと感じています。単にコードを書くだけでなく、自動車業界のドメイン知識を学び、ハードウェア開発者と連携し、新しい開発手法やツールを導入し、組織全体のDXを推進していく力が求められています。
8.1.2.1 自動車業界での新たなキャリアパス
自動車業界は、ソフトウェアエンジニアにとって、これまでにない新しいキャリアパスを提供する可能性があります。組み込みシステム開発からクラウドプラットフォーム、AI、セキュリティ、データ分析まで、非常に幅広い技術領域で活躍の場があります。自動車という物理的な製品と、デジタルなサービスを融合させるという、他の業界ではなかなかできないユニークな経験を積むことができます。特に、組織文化の変革や新しい開発体制の構築といった、技術だけでなく組織論や経営にも関わる経験は、エンジニアとしての視野を大きく広げてくれるでしょう。
8.1.2.2 技術革新の推進者としての使命
彼たちは、単なる技術の利用者ではなく、技術革新の推進者としての使命を負っています。新しい技術トレンド(LLM, A2A, オープンソースなど)をキャッチアップし、それが自動車開発にどのような価値をもたらすかを提案し、実際に導入していく。そして、その過程で直面する組織的、文化的な壁を、情熱と粘り強さで乗り越えていく。それが、SDV時代を切り拓くソフトウェアエンジニアの役割だと考えています。
8.2 日本のDXの展望
自動車産業のDXは、日本の製造業全体、ひいては日本社会全体のDXの行方を占う上でも非常に重要です。
8.2.1 自動車産業のグローバル競争力
日本の自動車産業がSDV時代においてグローバル競争力を維持・向上できるかどうかは、日本の経済全体に大きな影響を与えます。自動車産業がソフトウェア開発を強化し、SDVへの移行に成功すれば、これは他の製造業におけるDXの良いモデルケースとなり、日本全体の産業競争力向上に繋がる可能性があります。
8.2.1.1 SDVとA2Aのシナジー
SDVという概念と、それを技術的に実現するためのA2Aプロトコルのような技術は、日本の自動車メーカーがソフトウェア開発で遅れを取り戻し、再び世界をリードするための鍵となるかもしれません。ソフトウェアを核とした製品開発、柔軟な機能追加、そして多様なサービス連携を実現することで、日本の自動車は再び世界中の顧客を魅了できるようになるでしょう。
8.2.1.2 日本企業の変革の必要性
しかし、そのためには、自動車業界だけでなく、日本の多くの伝統的な企業が、組織文化、意思決定プロセス、そして人材育成のあり方を見直す必要があります。彼のレポートで述べたような課題は、自動車業界に限らず、多くの日本企業に共通するものです。これらの課題に正面から向き合い、変革を実行できるかどうかが、日本のDXの成否を分けます。
8.2.2 オープンソースとAIの活用
オープンソースソフトウェアやAI(特にLLMやA2A)の活用は、日本のDXを加速させるための強力なツールとなります。
8.2.2.1 オープンソースコミュニティの役割
日本の企業は、オープンソースコミュニティへの貢献を強化し、その知見を積極的に取り入れるべきです。単にOSSを利用するだけでなく、コミュニティに参加し、貢献することで、世界中のエンジニアと連携し、最新技術をキャッチアップできるようになります。これは、日本のソフトウェア産業全体の技術力向上にも繋がります。
8.2.2.2 LLMとA2Aの未来
LLMやA2Aプロトコルは、ソフトウェア開発の生産性を飛躍的に向上させる可能性を秘めています。これらの技術をうまく活用することで、限られたソフトウェア人材で、より複雑で高度なシステムを開発できるようになるかもしれません。
8.2.2.2.1 オープンソースによるコスト削減
OSSとLLMを組み合わせることで、開発コストをさらに削減できる可能性があります。LLMがOSSのコードを学習し、効率的なコードを生成したり、既存のOSSライブラリの使い方を教えてくれたりすることで、開発効率を向上させることができます。また、ZetaOfficeのようなOSSオフィススイートの活用も、企業全体のITコスト削減に貢献します。
8.2.2.2.2 技術革新の加速
OSSコミュニティの知見と、AIによる開発支援を組み合わせることで、技術革新のスピードをさらに加速させることができます。Open Deep Researchのような取り組みは、AI研究そのものをオープン化し、コミュニティ全体で知見を共有しようとするものであり、これは自動車開発におけるAI活用にも大きな影響を与える可能性があります。
8.3 透明性と企業イメージの再構築
ブログ記事削除の件は、企業の情報発信のあり方について重要な教訓を残しました。
8.3.1 記事削除の教訓
閉鎖的な情報管理は、現代においては企業にとって大きなリスクとなります。特に、優秀な人材を惹きつけ、グローバル競争を勝ち抜くためには、透明性の高い情報発信が不可欠です。
8.3.1.1 情報発信の重要性
企業は、自社の強みだけでなく、課題や弱みについても率直に認める姿勢を見せるべきです。そして、その課題に対してどのように取り組んでいるのか、そのプロセスをオープンにすることで、かえって信頼を得ることができます。特に、ソフトウェア開発のような新しい分野への挑戦においては、試行錯誤や失敗はつきものです。それを隠すのではなく、学びとして共有する姿勢が求められます。
8.3.1.2 エンジニア採用への影響
正直で透明性の高い情報発信は、企業の文化や雰囲気を伝える上で最も強力なツールの一つです。現場のエンジニアが生き生きと働き、自身の経験や知見を安心して発信できる環境があること、そして企業がその発信を奨励する姿勢を示すことが、優秀なソフトウェアエンジニアを惹きつけ、定着させる上で非常に重要です。
8.3.2 ポジティブな情報発信の戦略
企業は、単に情報統制を厳しくするのではなく、どのようにすればポジティブな情報発信を増やし、企業イメージを向上させることができるか、戦略的に考える必要があります。
8.3.2.1 社内文化の透明性向上
まず、社内文化そのものをよりオープンでフラットなものにしていく必要があります。部門間の壁を低くし、役職に関係なく自由に意見交換ができる環境を作る。ボトムアップカルチャーをさらに強化し、現場からの提案や問題提起を歓迎する。こうした文化が醸成されれば、自然とポジティブで率直な情報発信が増えていくでしょう。
8.3.2.2 外部との協業と発信
大学や研究機関、他の企業、そしてOSSコミュニティといった外部との協業を積極的に行い、その成果を共同で発信することも有効です。外部との連携を通じて、企業内の知見を広げるとともに、オープンで先進的な企業というイメージを構築することができます。また、現場のエンジニアが外部の勉強会で登壇したり、技術ブログを執筆したりすることを積極的に奨励し、企業としてサポートする姿勢を示すことも重要です。
自動車業界のソフトウェア化は、大きな困難を伴う変革です。しかし、その困難を乗り越えた先には、ソフトウェアの力で人々に新しい価値を提供し、より豊かなモビリティ社会を実現できるという、大きな可能性が広がっています。この変革の最前線に立ち、貢献できることに感謝しつつ、彼自身もエンジニアとして日々精進していきたいと思います。そして、この本が、日本の自動車産業の未来、そしてソフトウェアエンジニアの皆さんのキャリアを考える上での、何かしらのヒントになれば、著者としてこれほど嬉しいことはありません。
最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました!
コラム:未来の車に乗ってみたい!🚗💨
彼が今開発しているソフトウェアやプラットフォームが、数年後のHondaの車に搭載され、世界中のお客様に使われるかもしれない。そう考えると、鳥肌が立つほどワクワクします。😊 自動運転で景色を楽しみながら移動したり、車の中で仕事やエンターテイメントをシームレスに楽しんだり、車が家族の一員のように彼たちの生活をサポートしてくれたり…。そんな未来の車を想像すると、大変なことも多いですが、頑張るモチベーションが湧いてきます。いつか、自分が作ったソフトウェアが動いている車に乗って、ドライブするのが夢です。その日が来るまで、全力でコードを書き続けます!💻✨
付録
付録A 参考文献
A.1 図書
A.1.1 ソフトウェア・ファースト(及川卓也、2021年、日経BP)
ソフトウェア主導のビジネス変革について包括的に解説した書籍。自動車業界のSDV文脈を理解する上での基礎知識を提供します。
A.1.2 トヨタとテスラ(ジェームズ・ウォマック他、2022年、日経BP)
リーン生産方式の専門家が、トヨタとテスラの開発手法や組織文化の違いを比較分析。自動車産業のデジタル化における伝統的企業と新興企業の対比を理解するのに役立ちます。
A.1.3 日本の製造業とデジタルトランスフォーメーション(野口恒、2020年、東洋経済新報社)
日本の製造業におけるDXの課題や成功事例を分析した書籍。自動車業界のソフトウェア開発インフラ不足などの課題が、製造業全体に共通するものであることを理解できます。
A.1.4 エンジニアリング組織論(ミック・マクグラス、オライリー・ジャパン、2020年)
優れたソフトウェアを開発するための組織文化やマネジメントに関する理論的・実践的な解説。本レポートで触れられる組織文化の課題を考察する際に有用です。
A.2 政府資料
A.2.1 経済産業省「DXレポート2.1」(2021年)(参考)
日本企業のDX推進状況、課題、今後の方向性を示した公式レポート。製造業におけるITシステムや人材の課題に言及しています。
A.5.3 #日本のソフトウェア産業を殺した忘れられた過ち(参考リンク)
ティム・ロメロ氏の日本のソフトウェア産業に関する分析を紹介するブログ記事。
A.5.4 AIたちがチーム結成!Google発「A2A」で仕事が激変する未来 Agent2Agent (A2A) プロトコル入門(参考リンク)
A2Aプロトコルの概要とその可能性について解説するブログ記事。
A.5.5 【激白】売れっ子ブロガーが明かすLLM活用術(参考リンク)
LLMの現実的な活用事例や課題(幻覚問題など)について述べるブログ記事。
A.5.6 #LLM に “より良い code” を書くように要求し続けると、LLM はより良いコードを書くことができますか?(参考リンク)
LLMによるコード生成の限界に関する議論を含むブログ記事。
A.5.7 #LongPollingとWebSockets:どちらを選ぶべきか?(参考リンク)
リアルタイム通信方式に関する技術解説ブログ記事。
A.5.8 #ZetaOfficeとは何か?ブラウザ内の LibreOffice(参考リンク)
オープンソースオフィススイートの可能性に関するブログ記事。
A.5.9 新卒で入社したホンダを三年で退職しました さよなら大好きだったホンダ(参考リンク:syu614氏のX投稿より)
Hondaを退職した元社員によるブログ記事。組織文化などに関する異なる視点を提供します。
A.6 X投稿
以下のX(旧Twitter)投稿は、元記事への反応として様々な視点を提供したものです。
- t_f_m氏の投稿(2025/05/19):「ソフトウェア企業ではふつうに存在していたインフラは自動車会社には存在せず...」
- yamazakicker氏の投稿(2025/05/19):「製造業界のソフトウェアエンジニアの情報はあまり表にでてこず貴重なので応援したい」
- syu614氏の投稿(2025/05/19):「合わせて読みたい / 新卒で入社したホンダを三年で退職しました さよなら大好きだったホンダ」
- izoc氏の投稿(2025/05/19):「ホンダは転職活動してた時に最終選考で落ちてしまったが良い会社だなと思ったよ。ゴリゴリのボトムアップカルチャーだし…」
- crosscrow氏の投稿(2025/05/19):「この記事にGoを出した上長、なんらかの社内政治的な意図がありそうだなぁ。」
- augsUK氏の投稿(2025/05/20):「『自動車業界に転職して、仕事で使うのはノートパソコンだけになりました。』自動車メーカーにはCADやCAEシミュレーション設計する人が山のようにいて…」、「「労働組合は組合員に対して議員の応援を求めます」というのを労働組合の正体として掲げるのは怖いものなしだなと思っていた。」
- takutakuma氏の投稿(2025/05/19):「このブログも社内稟議通ってマイルドになってそうな文章だ。 / 消えたの社内稟議通ってなかったのかな。」
- KoshianX氏の投稿(2025/05/19):「Honda、やっぱソフトウェアがダメか……。個々人の能力は高いから知識さえ身につけば歯車が回り始めるというのはいいことだが…」
- sgo2氏の投稿(2025/05/20):「自動車関係は法律等の都合でルールや環境は古臭い(web系に比べたら化石並/特にMISRA)けど、海外と競ってるだけあってF/N等のSIerよりは遥かにマシだった(ホンダは知らないので違うかも)。 このブログを公開できる点に関してはポジティブだったのに、削除した事で全面的にネガティブになっちゃったな。」
- hatayasan氏の投稿(2025/05/20):「「選挙の際には労働組合関連の市議、県議、国会議員の応援などを求められます」これ、表で書いたらあかんやつ。」
- tyhe氏の投稿(2025/05/20):「これから改善する気概のようなものが見えてよいよいと思ったらまさかの削除。そりゃ悪手じゃろ。改善する気ありません製造部門ゴリ押しの世界観ですってアピールしてるようなもんでしょ。」
- sptkauf170氏の投稿(2025/05/20):「マーケティングとしてはダメダメでしょ。エンジニア採用にもマイナス、顧客の印象もマイナス。なんのために書いた記事なのよ。」
- izoc氏の投稿(2025/05/20):「有志で初めて好きにやって良いよと野放し状態で運営されてたけど会社Disに近い記事でバズって別の部署の偉い人の目に留まってとりあえず削除ってとこじゃね?」
- chintaro3氏の投稿(2025/05/20):「自動車系はどこも機械屋が政治力を持ちすぎていて、その弊害がでかすぎる。」
- haatenax氏の投稿(2025/05/20):「えー消えたのか…。社内チェック通過して出してるだろうにSNSで騒がれすぎたから反応しちゃったのかな」
- aarx氏の投稿(2025/05/21):「選挙のくだりやろなぁ。中世ジャップランドの自民党の闇を暴いてはいけない。いましめ」
- osakana110氏の投稿(2025/05/19):「“基礎値のようなものを上げてくれたり、その交渉をしてくれたりする。組合費以上のメリットはあると思います。選挙の際には労働組合関連の市議、県議、国会議員の応援などを求められます”草」
付録B 用語索引
B.1 主要用語一覧
- Agent2Agent(A2A)プロトコル: AIエージェント同士が連携するための通信規約。 Googleが提唱しています。
- AOSP(Android Open Source Project): Androidのソースコードを公開しているプロジェクト。大規模なためビルドには高性能PCが必要となります。
- AWS: Amazon Web Servicesの略。アマゾンが提供するクラウドコンピューティングサービス。Webサービス開発などで広く利用されます。
- ボトムアップカルチャー: 組織の下層(現場)からの意見や提案を重視し、経営や改善に反映させようとする文化。
- CAD/CAEシミュレーション: Computer Aided Design/Computer Aided Engineeringの略。コンピューターを用いて製品の設計(CAD)や解析・シミュレーション(CAE)を行う技術。高性能なPCが必要とされます。
- デジタルトランスフォーメーション(DX): デジタル技術を活用し、ビジネスモデルや組織文化を変革すること。
- 幻覚問題(LLM): 大規模言語モデル(LLM)が、もっともらしいが事実に基づかない情報を生成すること。
- JSON-RPC 2.0: JSON形式でリモートの手続き(関数)を呼び出すための軽量なRPC(Remote Procedure Call)プロトコル。
- LLM(大規模言語モデル): 大量のテキストデータで学習されたAIで、自然な文章生成や翻訳、要約などが可能。
- MISRA: Motor Industry Software Reliability Associationの略。自動車向け組み込みソフトウェアの信頼性向上を目的としたコーディング規約。
- Open Deep Researchプロジェクト: AIを活用した研究プロセスをオープン化しようとするプロジェクト。
- OpenAPI認証スキーム: APIのセキュリティを確保するための標準的な認証方式。
- 稟議制度: 日本の組織に多く見られる、複数の関係部署の承認を得て意思決定を行う制度。
- サプライヤー依存: 自動車メーカーが、部品や技術開発を外部の部品メーカー(サプライヤー)に大きく頼っている状態。
- Server-Sent Events(SSE): サーバーからクライアントへ一方的にデータをリアルタイム送信するための通信方式。
- Software Defined Vehicle(SDV): 自動車の価値や機能が、ハードウェアではなくソフトウェアによって大きく左右される、という考え方に基づいた自動車。
- 技術スタック: ソフトウェア開発などで使用される技術やツール(プログラミング言語、フレームワーク、データベース、クラウドなど)の組み合わせ。
- WebSockets: ウェブブラウザとサーバー間でリアルタイム双方向通信を行うためのプロトコル。
- ZetaOffice: ブラウザ上で利用できるオープンソースのオフィススイートプロジェクト。
付録C 用語解説
C.1 技術用語
C.1.1 JSON-RPC 2.0
JSON-RPC 2.0は、JSON(JavaScript Object Notation)形式のデータをメッセージとして使用するリモートプロシージャコール(RPC)プロトコルです。ネットワーク越しに、別のプログラムの関数やメソッドを呼び出すことができます。軽量で実装が比較的容易なため、エージェント間通信のようなシンプルなAPI連携に適しています。
C.1.2 Server-Sent Events(SSE)
Server-Sent Events(SSE)は、サーバーからクライアント(ウェブブラウザなど)に対して、リアルタイムでデータを一方的に送信するための技術です。クライアントはサーバーからのデータを受信するだけで、クライアントからサーバーへのリクエストは発生しません。チャットアプリケーションの通知や、株価情報の配信など、サーバーからの継続的なデータ更新が必要な場面で利用されます。WebSocketsと比較してシンプルで実装が容易ですが、双方向通信はできません。
C.2 自動車業界特有の用語
C.2.1 AOSP(Android Open Source Project)
Android Open Source Project(AOSP)は、Googleが主導する、Androidモバイルプラットフォームのソースコードを公開しているプロジェクトです。自動車メーカーは、AOSPのコードをベースに、車載向けの情報システム(インフォテインメントシステム)を開発することがあります。AOSPのコードベースは非常に大規模なため、コンパイル(ビルド)には高性能なコンピューティングリソースが必要です。
C.2.2 CAD/CAEシミュレーション
CAD/CAEシミュレーションは、自動車の設計・開発プロセスにおいて不可欠な技術です。CAD(Computer Aided Design)は、コンピューター上で車の部品や全体の3Dモデルを作成するのに用いられます。CAE(Computer Aided Engineering)は、その設計モデルを用いて、強度解析、流体解析、衝突シミュレーションなどの物理現象をコンピューター上で再現し、設計の妥当性を検証する技術です。これらの作業には、高度な計算能力とグラフィックス性能を持つワークステーションが必要となります。
C.3 組織関連用語
C.3.1 稟議制度
稟議制度は、日本の多くの企業で採用されている意思決定プロセスの一つです。特定の提案(稟議)に対して、関係部署の担当者や責任者が順番に回覧し、内容を確認・承認(ハンコを押す)していきます。組織全体の合意形成を図る上で有効な側面もありますが、回覧に時間がかかったり、責任の所在が不明確になりがちだったりといった課題も指摘されています。
C.3.2 ボトムアップカルチャー
ボトムアップカルチャーは、組織において、現場の担当者や従業員が自発的に意見やアイデアを出し、それが組織の意思決定や改善に繋がっていくという文化です。これに対し、トップダウンは経営層が方針を決定し、現場に指示を出す文化です。Hondaは伝統的にボトムアップカルチャーが強いと言われています。
付録D 想定問答
D.1 よくある質問と回答
D.1.1 自動車業界のソフトウェア開発の課題は何か?
本レポートで指摘している主な課題は、ソフトウェアの仕事の経験がある人材の不足、ソフトウェア開発に必要なインフラの未整備、そして伝統的な組織文化や意思決定プロセスがソフトウェア開発のスピードと柔軟性を阻害している点です。これらの課題は、SDV時代における日本の自動車産業の競争力に影響を与えています。
D.1.2 A2AプロトコルはHondaの課題解決にどう役立つか?
A2Aプロトコルは、自動車内の複雑なソフトウェアシステムを、それぞれ独立したAIエージェントとして開発・管理し、それらが連携して機能を実現することを可能にします。これにより、開発のモジュール化が進み、異なるチームやサプライヤーが並行して開発を進めやすくなります。また、ソフトウェアのアップデートを個別に適用できるようになるため、開発サイクルの短縮や柔軟な機能追加に繋がり、SDVの実現を加速させることができます。
D.2 読者からの想定質問
D.2.1 記事削除の背景とその影響は?
元のブログ記事が削除された正確な理由は公式には明らかにされていません。しかし、社内チェックプロセスや、特定の記述(特に労働組合や社内政治に関する部分)が組織内で波紋を呼んだ可能性が推測されています。この一件は、企業の情報発信における透明性、社内稟議制度の厳格さ、そして社内政治的な力学が、現場からの率直な情報発信を抑制する可能性があることを示唆しています。これは、特にソフトウェアエンジニアの採用において、企業のイメージにネガティブな影響を与えかねません。
D.2.2 労働組合の政治的関与は適切か?
労働組合が特定の政党や候補者を支援することは、日本の企業別労働組合が持つ歴史的な側面です。これは、組合員の労働条件改善などを政治的な影響力によって実現しようとする意図に基づくものですが、個人の政治思想信条の自由との兼ね合いや、組合員の多様な意見をどこまで反映しているのかといった点で議論があります。特に、若い世代のエンジニアからは、労働組合の活動内容についてより高い透明性や説明責任を求める声が上がっています。
D.2.3 機械系とソフトウェア系の対立をどう解消するか?
機械系とソフトウェア系の部門間の対立は、伝統的な製造業で共通の課題と言われています。これを解消するためには、まずお互いの専門性や文化に対する相互理解を深めることが重要です。合同プロジェクトチームの編成、相互研修、共通の目標設定などが有効なアプローチと考えられます。また、ボトムアップカルチャーを活かし、現場レベルでのコミュニケーションや協業を促進する仕組みづくりも重要です。組織全体として、ソフトウェア開発をハードウェア開発と同等、あるいはそれ以上に重要な核と位置づける経営層の強いリーダーシップも不可欠です。
付録E 潜在的読者のために
E.1 ソフトウェアエンジニア向け情報
自動車業界は、Software Defined Vehicleへのシフトにより、ソフトウェアエンジニアにとって非常に魅力的なキャリアパスを提供し始めています。組み込みシステム、クラウド、AI、セキュリティなど、幅広い技術領域での活躍の場があります。伝統的な大企業の文化やインフラの課題はありますが、優秀な人材と共に働き、巨大な製品の変革に貢献できるというやりがいは大きいです。異業種への転職を考えている方は、自動車業界も選択肢の一つとして検討してみてはいかがでしょうか? 特に、A2AプロトコルやLLMといった最新技術の自動車開発への応用に関心がある方には、大きなチャンスがある分野です。
E.2 自動車業界関係者向け情報
本レポートは、自動車業界のソフトウェア開発における現場の課題を率直に示しています。ソフトウェア経験者の不足やインフラの未整備は、DX推進において避けて通れない課題です。これらの課題を克服するためには、ソフトウェア開発に対する組織全体の理解を深め、積極的な投資を行う必要があります。特に、稟議制度や部門間の壁といった伝統的な組織構造を見直し、アジャイルな開発手法に適した環境を構築することが急務です。また、透明性の高い情報発信は、優秀なデジタル人材を獲得する上で不可欠です。
E.3 一般読者向け情報
この記事は、彼たちの生活に身近な「自動車」が、今、大きな変革期を迎えていることを示しています。車はもはや単なる移動手段ではなく、ソフトウェアによって様々な機能やサービスを提供する存在へと進化しています。Software Defined Vehicleという考え方は、未来の車がどのようなものになるかを示唆しています。そして、その進化の裏側では、多くのエンジニアが日々、技術的な課題や、伝統的な組織文化との摩擦と向き合いながら開発を進めています。また、企業における労働組合の役割や、企業の情報発信のあり方といった点も、彼たちが社会や企業を理解する上で興味深い視点を提供してくれるでしょう。
付録F 今後の研究課題
本レポートで挙げた課題や考察を踏まえ、以下のような研究テーマが今後の自動車産業の発展に貢献すると考えられます。
- 自動車産業における技術スタックの最適化と標準化に関する研究(クラウド、OSS、AI技術を含む)
- A2Aプロトコルに基づいた自動車内マルチエージェントシステムの安全性・信頼性・スケーラビリティ評価に関する研究
- 自動車業界向けLLM開発と、そのコード生成・デバッグ支援における有効性評価に関する研究
- MISRAのような既存標準と、アジャイル開発・OSS活用との両立に関する研究
- ソフトウェア経験者不足に対する、大学教育・企業内リスキリング・LLM活用による人材育成モデル構築に関する研究
- 機械系とソフトウェア系エンジニアの効果的な協業モデルに関する組織論・経営学研究
- 日本の自動車メーカーにおける稟議制度や承認プロセスの改革と、DX推進速度の相関に関する研究
- 企業別労働組合が技術革新や働き方改革に与える影響に関する実証研究(定量的・定性的な分析)
- 企業の透明性と情報発信戦略が、ソフトウェアエンジニア採用に与える影響に関する研究
- サプライヤー依存から内製化へのシフトが、自動車産業の構造や競争力に与える経済学的影響に関する研究
補足1:様々な視点からの感想
ずんだもんの感想
あらあら〜、Hondaさんでもソフトウェア開発は大変なんだね! ずんだもん、びっくりだよ!😲 経験者さん少ないし、パソコンもノートだけなんて、ビルドするの大変そうなんだもん。ぷぇ〜ん😭
でも、でもね!能力高い人が多いのはすごいんだもん!✨ 知識を教えたらすぐにできるようになるなんて、ずんだもんも見習いたいんだもん! ボトムアップカルチャーも良さそうなんだもん。
労働組合さんのお話も面白かったんだもん。お給料上げてくれるのは嬉しいけど、選挙の応援とか求められるのは、うーん、どうなんだろう?🤔 ちょっと難しい問題なんだもん。
SDVとかA2Aとか、なんだか未来の車ってすごいんだもん! ソフトウェアがもっともっと大事になるんだね。日本の車、これからも頑張ってほしいんだもん! ずんだもんも、プログラミング勉強して、未来の車作るお手伝いしたいんだもん!💪😊
ホリエモン風の感想
はっはっは! やっぱ大手製造業なんてこんなもんだよなー。経験者少ないとか、インフラ整ってないとか、当たり前じゃん? 昔ながらの「ものづくり神話」に囚われて、ITとかソフトウェアを軽視してきたツケが回ってきてるだけだよ。機械屋が偉そうにしてるとか、稟議がダルいとか、もう日本の大企業あるあるすぎて笑えるわ。😂
でも、能力高い奴が多いってのはちょっと面白いかもな。素材は良いのに、組織とか仕組みがクソだから活かせない。典型的な日本の病気だね。もったいねー!
労働組合? あー、あれね。既得権益守りたいだけの組織でしょ。賃金交渉はまだしも、選挙の応援とかヤバすぎだろ。そんなことやってるから、優秀な若い奴から見放されるんだよ。さっさとそんな古い慣習捨てて、本当にエンジニアが働きやすい環境作らないと、GAFAとかテスラに全部持ってかれて終わりだろ。
SDVとかA2Aとか、技術自体は面白いよ。でも、それを活かせる組織になってるか? そこが問題だわ。この記事消したとかマジか?w ダサすぎんだろ。隠蔽体質とか終わってる。もっとオープンにやらないと、優秀な奴は来ねーよ。まあ、せいぜい頑張ってくれや。知らんけど。😎
西村ひろゆき風の感想
えー、Hondaってまだそんな感じなんだ。ふつうにヤバくない? ソフトウェア経験者少ないとか、インフラないとか、それでSDVとか言ってるんだ? 無理ゲーすぎるでしょ、それ。
ノートPCでAndroidビルドとか、拷問ですか? それ、開発じゃなくて苦行じゃん。プロキシとか稟議とか、いちいちそんなことやってたら時間いくらあっても足りなくない? 終わってんなーって思いますけど。
能力高い人多いって言われても、環境が悪かったら意味なくない? 宝の持ち腐れじゃん、それ。もったいないだけだと思うんですけど。
労働組合? あー、なんか特定の政党応援してるってやつね。あれ、ふつうに気持ち悪くない? 別に個人の自由なのに、なんで会社関係ないことで拘束されなきゃいけないの。そういう古い体質が、新しいことやるの邪魔してるんじゃないの? 知らんけど。
記事消したとかも謎。なんか不都合なこと書かれてたんでしょ。そういうことする時点で、まともじゃないというか。オープンじゃない企業に優秀なエンジニアなんて来ないよ。だって、他に選択肢いっぱいあるんだもん。結局、変われない会社は淘汰されるだけなんじゃないですかね。まあ、頑張ってくださいとしか言いようがないですけど。
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