「米国債の法外な特権」は終わりつつある? 米国債40年史から見えてきたドル覇権の変質 #九19 #1790資金法FundingActとアレクサンダーハミルトン_江戸米国史ざっくり解説
イントロダクション 5%。 たった一つの数字に、米国の金融史が凝縮されている。 米国債30年物の利回りは、2020年には年平均1.56%だった。それが2025年には4.78%、2026年8月には5.22%まで上昇した。1981年には13%台だった長期金利が、40年かけて1%台まで沈み、そこから再び5%台へ戻ってきたのである。 数字だけを見れば、これは「金利が上がった」というだけの出来事に見える。 しかし、米国債とは何だろう。 それは単なる「米国政府の借金」ではない。 世界の中央銀行にとっては外貨準備であり、金融機関にとっては流動性資産であり、金融市場にとっては担保であり、投資家にとっては巨大な安全資産市場である。つまり、一枚の米国債の背後には、ドルを中心として構築された巨大な世界金融システムが存在している。 だからこそ、奇妙な問いが生まれる。 ドルは依然として世界に必要とされている。なのに、なぜ米国の長期債務には、これほど高い金利が要求されるのか。 ここには、金融史の小さな変化から世界秩序の大きな変化へズームアウトできる入口がある。 「法外な特権――exorbitant privilege」という言葉は、米国がドルという基軸通貨を発行できることで享受する構造的な優位を表現してきた。世界がドルを必要とする限り、米国は自国通貨で巨大な債務を発行し、それを世界の投資家に引き受けてもらうことができる。 だが、ここで一つの区別が必要になる。 「ドルを欲しがること」と「米国債を低い金利で欲しがること」は、同じではない。 この二つを同一視すると、現在の米国債市場で起きていることを見誤る。 世界はドルを必要とし続けるかもしれない。 米国債も安全資産として必要とされ続けるかもしれない。 それでも、30年という長い期間にわたって米国政府の債務を保有するなら、投資家はより高い利回りを要求することができる。 もしそうなら、「法外な特権」は消滅しているのではない。 特権の価格が変わっている。 かつての米国にとって、「ドルを発行できる」ということは「安く借りられる」ということとかなり近かった。 しかし現在、そこに亀裂が入り始めている可能性がある。 借りられる特権は残っている。 しかし、安く借りられる特権は薄くなっている。 本稿では、この仮説を米国債金利の長期的な軌跡から検討する。 ...