#ブロッコリースプラウト抽出物、前糖尿病の血糖値を改善!腸内細菌叢が鍵を握る! #三02
https://www.nature.com/articles/s41564-025-01932-w
前糖尿病における空腹時血糖に対するブロッコリースプラウト抽出物(BSE)の影響を評価するため、無作為化プラセボ対照試験が実施されました。
2型糖尿病の進行に対する通常の抗糖尿病治療の効果が限られている中、前糖尿病患者へのライフスタイル介入が推奨されていますが、リソースが重く、効果にもばらつきがあります。このため、代替の栄養補助食品が必要とされており、特にBSEの有効性が検討されました。 研究では、スルフォラファンを含むBSEが空腹時血糖値の制御に寄与する可能性があるとの仮説が立てられ、無作為化試験でその効果を評価しました。空腹時血糖が正常より高い個体を対象とし、研究参加者はBSEまたはプラセボグループに分けられ、空腹時血糖値の変化を主要評価項目としました。また、サブグループ解析が行われ、腸内微生物叢の影響も考慮されました。 試験の結果、参加者は年齢35〜75歳、BMIは27〜45 kg/m²の範囲で、血糖値に影響を与える治療は受けていない方が対象となりました。BSE群では、胃腸の副作用が主な理由で一部が追跡調査を中止しましたが、スルフォラファンの提供効率とその効果は示されました。データ分析により、BSEの効果に関連する微生物叢の特性が調査され、多様な要因が反応に影響を与えることが明らかになりました。 この研究は、前糖尿病患者におけるBSEの治療効果を示し、肥満やインスリン抵抗性に基づいた新たな治療法の可能性を提示しています。
また、腸内微生物叢の役割を明確にすることが、今後の個別化された治療への道を開く重要な知見であり、さらなる研究が期待されています。
研究論文「前糖尿病における空腹時血糖に対するブロッコリースプラウト抽出物とベースラインの腸内微生物叢の効果:無作為化プラセボ対照試験」の内容をさらに詳しくご説明します。より詳細な情報として、研究デザイン、主要な結果の詳細、腸内細菌叢の役割、臨床的な意義、そして研究の限界と今後の展望について掘り下げて解説します。
1. 研究デザインと方法の詳細
-
試験デザイン:
- 無作為化プラセボ対照二重盲検試験: 参加者はランダムにブロッコリースプラウト抽出物(BSE)群またはプラセボ群に割り当てられ、研究者も参加者もどちらの治療を受けているか分からないように設計されました。これは、客観的な結果を得るために重要な要素です。
- 並行群間比較: BSE群とプラセボ群を並行して観察し、効果を比較しました。
- 単施設試験: スウェーデンのヨーテボリにある単一の医療機関で実施されました。
- 期間: 12週間の介入期間。
-
参加者:
- 募集方法: ヨーテボリとその周辺地域の一般住民から、登録された住所とスウェーデンの個人番号を持つ35歳から75歳の人々を無作為に選択し、招待状を送付しました。
- 包含基準:
- 空腹時血糖値が 6.1~6.9 mmol/L (糖尿病予備軍の診断基準)
- 年齢 35~75歳
- BMI 27~45 kg/m² (過体重または肥満)
- 書面によるインフォームドコンセント
- 除外基準:
- 糖尿病の既往歴または血糖降下薬の使用
- 活動性肝疾患
- スクリーニング時の肝酵素(ASTまたはALT)が正常上限の3倍を超える
- スルフォラファンの吸収を妨げる可能性のある胃腸疾患
- スクリーニング時のクレアチニン値 > 130 µmol/L
- 血液凝固障害または抗凝固療法
- 心血管疾患の診断または既知の心血管イベントの既往歴 (6ヶ月以内)
- 全身性グルココルチコイド治療
- 血糖値に影響を与える可能性のあるハーブ治療(マルチビタミン剤を除く)
- 研究情報を理解できない
- 他の臨床試験への参加
- その他、研究への参加を困難にする可能性のある身体的または精神医学的状態または治療
-
介入:
- ブロッコリースプラウト抽出物 (BSE) 群: 1日1回、スルフォラファン 150μmol を含む BSE を摂取。
- プラセボ群: BSE と見た目と味が似たプラセボを1日1回摂取。
- 摂取方法: 朝に摂取するように指示。
- コンプライアンス: 日記で記録し、最終訪問時に残りの錠剤を数えて確認。
-
評価項目:
- 主要評価項目: ベースラインから12週間後の空腹時血糖値の変化 (プラセボ群との比較)。
- 副次評価項目: BMI、HOMA-IR (インスリン抵抗性の指標)、HOMA-B (インスリン分泌の指標)、HbA1c、インスリンクリアランス、脂肪肝指数、血漿コレステロール、血清トリグリセリド濃度、身体活動、食餌パターンの変化。
- 安全性評価項目: 有害事象の発生頻度と種類。
-
統計解析:
- 主要評価項目および副次評価項目は、線形モデルまたは共分散分析 (ANCOVA) を用いて解析。
- サブグループ解析、腸内細菌叢解析、機械学習など、探索的な事後分析も実施。
2. 主要な結果の詳細
-
主要評価項目 (空腹時血糖値):
- 全体: BSE群はプラセボ群と比較して、統計的に有意な空腹時血糖値の低下を示しましたが、事前に設定された目標値 (0.3 mmol/L の群間差) にはわずかに届きませんでした (平均差 0.2 mmol/L, P=0.04)。
- 病態生理学的サブグループ別:
- MARD様特性サブグループ: BSE群はプラセボ群と比較して、空腹時血糖値の有意な低下 (平均差 0.4 mmol/L, P=0.008) およびインスリン分泌の改善 (HOMA-B) を示しました。
- MOD様特性およびSIRD様特性サブグループ: BSE群とプラセボ群の間で、空腹時血糖値の変化に有意差は認められませんでした。
- BT2160 オペロンとの相互作用: BT2160 オペロンの存在量が多い参加者 (特にMARD様特性を持つ) で、BSE に対する血糖降下反応がより顕著でした。
-
副次評価項目: BMI、HbA1c、脂質パラメータなど、他の代謝指標には有意な変化は認められませんでした。これは、BSE の効果が主に空腹時血糖値に特異的であることを示唆しています。
-
安全性:
- BSE群で、胃腸関連の副作用(軟便、吐き気、下痢、嘔吐、逆流など)の報告頻度が高く、試験中止例も多く認められました (BSE群 9名、プラセボ群 6名)。しかし、重篤な有害事象は報告されませんでした。
3. 腸内細菌叢の役割の詳細
-
ベースラインの腸内細菌叢と病態生理学的サブグループ:
- MARD様特性サブグループでは、健康に関連する細菌種 (ビフィドバクテリウム属、ラクトバチルス属など) や酪酸産生菌 (フィーカリバクテリウム属、ユーバクテリウム属) が豊富でした。これは、MARD様特性サブグループが、比較的軽度な代謝プロファイルを持つことを反映していると考えられます。
- MOD様特性および SIRD様特性サブグループと比較して、ベースラインの腸内細菌叢の組成に有意差が認められました。
-
BSE への反応と腸内細菌叢:
- 顕著な反応者: スルフォラファンに対する血糖降下反応が大きかった参加者では、Desulfovibrio sp.、Anaerostipes caccae、Bacteroides M10、Bacteroides D2 などの特定の細菌種が増加していました。特に、Bacteroides M10 および Bacteroides D2 は、グルコシノレートを活性型スルフォラファンに変換する酵素を持つことが知られています。
- BT2160 オペロン: 顕著な反応者では、グルコシノレート活性化に関与する BT2160 オペロンの存在量が高い傾向がありました。また、BT2160 オペロンの存在量が多いほど、特に MARD様特性サブグループにおいて、BSE に対する血糖降下反応が大きいことが示唆されました。
- 酪酸産生: 顕著な反応者では、酪酸産生菌である A. caccae が増加しており、酪酸キナーゼの存在量も増加していました。酪酸は、腸内環境を改善し、インスリン感受性を高めるなど、代謝に有益な影響を与えることが知られています。
-
反応が少ない参加者: 口腔病原体や通性嫌気性菌が増加し、乳酸産生菌 (ストレプトコッカス属、ヴェイヨネラ属) が豊富でした。また、NAFLD の臨床マーカーである GGT の血漿濃度が高い傾向がありました。
4. 臨床的な意義と個別化医療への展望
- 前糖尿病の精密医療への道: この研究は、スルフォラファンを含む BSE が、全ての前糖尿病患者に等しく効果があるわけではなく、病態生理学的サブグループや腸内細菌叢の状態によって効果が異なることを示唆しています。これは、前糖尿病の治療において、患者の特性に基づいた個別化医療のアプローチが重要であることを強調しています。
- 機能性食品としてのブロッコリースプラウト: BSE は、比較的安全で安価な機能性食品として、特定の前糖尿病患者(特にMARD様特性を持ち、BT2160 オペロンを多く持つ患者)にとって、血糖コントロールを改善する有効な選択肢となる可能性があります。
- 腸内細菌叢のバイオマーカーとしての可能性: BT2160 オペロンの存在量や特定の腸内細菌種の組成は、BSE の治療効果を予測するバイオマーカーとなりえる可能性が示唆されました。これにより、事前に BSE が有効な患者を特定し、より効果的な治療戦略を立てることが期待されます。
5. 研究の限界と今後の展望
-
研究の限界:
- 追跡期間が短い: 12週間の追跡期間では、長期的な血糖コントロールや糖尿病発症予防効果を評価することはできません。
- 胃腸関連の副作用: BSE群で胃腸症状による試験中止例が多く、忍容性に課題が残ります。
- 自己選択バイアス: 参加者は一般住民からの自己選択であり、ライフスタイルの改善への意欲や治療へのコンプライアンスが高い可能性があります。
- 多重比較: 主要評価項目と副次評価項目の変化の信頼区間は、多重比較の調整が行われていません。
-
今後の展望:
- 長期的な効果の検証: より長期間の追跡調査を行い、BSE の長期的な血糖コントロール効果や糖尿病発症予防効果を評価する必要があります。
- 最適な投与量と投与方法の検討: BSE の最適な投与量や投与方法、副作用を軽減する方法などを検討する必要があります。
- 個別化医療への応用: 腸内細菌叢のバイオマーカーを活用した、より精密な前糖尿病の治療戦略の開発が期待されます。
- 大規模臨床試験の実施: より大規模な臨床試験で、今回の研究結果を検証し、臨床的な有用性を確立する必要があります。
- 作用機序の解明: スルフォラファンや腸内細菌叢が血糖コントロールを改善するメカニズムを、さらに詳細に解明する必要があります。
まとめ
この研究は、ブロッコリースプラウト抽出物(BSE)が前糖尿病患者、特に軽度加齢性糖尿病(MARD)様特性を持つ患者において、空腹時血糖値を改善する可能性を示唆する重要な知見を提供しました。さらに、腸内細菌叢、特に BT2160 オペロンの存在量が、BSE の治療効果に影響を与える可能性を示唆し、前糖尿病の個別化医療への新たな道を開く可能性があります。今後のさらなる研究により、スルフォラファンを用いた前糖尿病の予防・治療戦略が確立されることが期待されます。
コメント
コメントを投稿